TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

立花隆はただの「知の巨人」ではなかった

ジャーナリストを名乗る者なら誰もが憧れたのが立花隆さんだった。博覧強記で「知の巨人」と言われるが立花さんは単なる「知の巨人」ではなかった。圧倒的な読書量で取材対象の全体像をとらえた上に、丹念な取材で事実を積み上げ、真実に迫る。調査報道の権化であった。
1993年私は金融危機を回避するための政策提言をまとめた『資産再評価』(講談社)を出版した。それを実行していればその後の金融危機は起こらなかった。ごく簡単に言えば、銀行が持っていた莫大な株式含み益で不良債権を帳消しにしてしまえという提案だ。頭のキレる日銀マンへの取材で書き上げた。
当時バブル経済はすでにピークアウトしていたが、まだまだ株価水準は高く、銀行は含み益ですべての不良債権を楽々処理できたのだ。しかし当時の大蔵省も銀行自身も危機感が薄く、しばらく放置しておけば不良債権問題など終わってしまうとたかをくくっていた。
そんなか、この本の本質を理解してくれたのが立花さんだった。金融や会計など立花さんには無縁のものと思っていたが、そうではなかった。『資産再評価』の意義を誰よりもわかってくれたのは立花さんだった。立花さんが書いてくれた書評を読みながら、その理解の深さに私は驚嘆し、感激した。社会との深い関わりを絶やさない「知の巨人」だったのである。