TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

「患者の人生観に寄り添う」在宅医療

在宅医療(訪問医療)の実状を私はまったく知らなかった。

医者が寝ている患者の自宅を訪ねて診察してくれたのは昭和の30年代くらいまでのことだろう。2005年に公開され大ヒットした映画、『ALWAYS 三丁目の夕日』の世界でる。東京タワー建設に胸躍らせ、東京オリンピックに日本中が熱狂した時代、東京下町の人々が貧しいながら明るく希望を持って生きる姿を描いた映画の中で、三浦友和さんが演じたのが原付バイクで往診する訪問診療医だった。子供の頃の遠い記憶にも「病気になるとお医者さんは家にきてくれる」ものと残っている。

だが時代は変わり、病気になったら病院にいくのが常識となり、町を走り回る医者の姿は消え、私の意識からも訪問医のイメージは消えてなくなっていた。

だから佐々木淳氏が率いる悠翔会の存在を知った時には驚いた。起ち上げは2006年だが、いまでは首都圏に15拠点(クリニック)をかまえ、医師76名で常時5000名の患者に在宅医療サービスを提供している。

なぜ悠翔会を起ち上げたのか?

タカラベnews&talkの対談に先立って佐々木さんから頂戴した返事がこれだ。

「医療の仕事は病気を治すことだと信じてきた。そして、病気を治すことでしか患者さんを幸せにできないと考えていた。一方、在宅医療の患者さんたちは治らない病気や障害とともに生きている。中には、重度障害があっても、人生の最終段階が近くても、生活の中に楽しみを見つけ、幸せに人生を生きている人たちがいる。人は病気や障害があっても、幸せに生きられるのだということを突き付けられて衝撃を受けた。同時に、患者に『病気が治らないことが不幸だ』という価値観を刷り込んできたのは医師ではないのか、という疑問がわいてきた。人は老化や病気によって体の機能が低下し、いつか死を迎える。急性期医療だけでは、このプロセスが『不幸』なものになってしまう。病気が治らなくても、死ぬまで幸せに生きられる。こういう価値観をより多くの人に伝えていくことが大事だと思い、開業を決意した」

その言葉に嘘がないことは、佐々木さんのFacebookの投稿からも容易にうかがい知れる。患者に向けられる彼の眼差しがじつに温かいのだ。

だが私にはどうして佐々木さんに聞きたいことがいくつかあった。急性期病院の勤務医と在宅専門医とでは同じ医者とはいえぬほどミッションも、働く環境もまったく違う。開業を決意させるには、相当のきっかけがあったはずである。きれいごとではない、医師として人生を180度変える衝撃的な何かがあったはずである。
対談はそこから始まった。
首都圏の在宅医療を支える悠翔会理事長・診療部長、佐々木淳氏に在宅医療の現実を語っていただいた。
医者は社会貢献、報酬、キャリアで動く。悠翔会で働く医者はどんな人間たちなのか。

これから迎える超高齢化社会に必要なことは「患者の人生観に寄り添う
医療」であることがよくわかった。
この対談だけはぜひともご覧いただきたい。
BSイレブン「タカラベnews&talk」9月25日、よる8時59分~