TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

カブールの女性たちを絶望させたのはタリバンだけではなかった

カブールをタリバンが制圧した8月15日、カブール在住のアフガニスタン女子大学生が、悲痛な叫びを英紙「ガーディアン」に寄せました。その一部を引用します。
「日曜日の早朝、授業のために大学へ向かっていると、女子寮から女性たちが駆け出してきた。何があったのか尋ねると、タリバンがカブールに到着したので警察が避難するよう言っている、ブルカを着ていない女性は殴られるのだと言う。私たちは家に帰りたかったが、公共交通機関は使えなかった。女性を乗せたことの責任を負いたくないからと、ドライバーたちが乗せてくれないのだ。寮で生活していた女性たちからすれば、さらに悲惨だ。彼女たちはカブール外の土地から来ていたので、どこへ向かえばいいのかもわからず、怖がり、混乱していた」
しかし本当の悲惨さはカブールの男たちの態度でした。
「一方で周囲に立っていた男たちは、少女や女性たちをバカにしてその恐怖を笑っていた。『ブルカを着てこいよ』とある男は言った。またある男は『お前たちが路上に出るのは今日が最後だ』と言い、さらに『1日でお前らの4人を娶ってやる』と言う男もいた」
この女性は11月には、アフガニスタンで最も優れた2つの大学であるアフガニスタン・アメリカン大学とカブール大学で学位を取得する予定だったのです。そのために大変な努力を続けてきた彼女が家に帰るやいなや、最初にやったことはIDや卒業証書、修了証明書を隠すことでした。
「あまりにも辛い。誇るべきものを、なぜ隠さなければならないのか。今この国では、自分が自分であることが許されない」
女性の社会的存在を消し去ろうとしているのはタリバンだけでははない。8月15日以前、女性がブルカも身にまとわず、普通に教育を受け、普通に働くことを受け入れてきた首都カブールの男たちの潜在意識にもずっとくすぶり続けていたところに、この女子学生の絶望の深さが読み取れます。
911の復讐心から始まったアフガン戦争は2011年にビンラディンを殺害して以後、その目的はアフガンの民主化なのか、女性の解放なのか、なにがなんだかわからなくなり、やがて米国民は関心を失っていきました。オバマもトランプも一貫してアフガン撤退を言い続け、バイデンが最悪の形で実行したのです。バイデンは米国人とその協力者のアフガン脱出のために連日、米軍の輸送機を飛ばしていますが、米国がもたらした砂上の自由のなかで生まれ育ったカブールの女性たちは取り残されます。なんの救済も期待できないのです。彼女たちの絶望感の深さは推し量ることもできません。米国歴代大統領だけが責めを負うべき話ではなく、復讐心から無関心へと心変わりした米国民全員がおうべきです。南米からの移民とは訳が違う。カブールの女性たちの移民申請を米国社会として積極的に受けいれるべきだ。彼女たちのの未来を奪ったのは米国民の無関心だからだ。