TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

鄧小平、江沢民、胡錦濤に対する習近平の悪態

習近平が苛立っているようだ。中国共産党の最高幹部と、その経験者である長老たち話し合う北戴河会議がきっかけだ。毎年8月に北京市近くの避暑地である北戴河(ほくたいが)で行われることから、そう呼ばれている。深刻な中国経済の現状を長老たちに批判されたことがきっかけだという。
「不景気は鄧·江·胡三代の失敗だ」
会議後、習近平は激怒したという。「鄧」は毛沢東の破滅的な失敗から改革解放へと導びいた鄧小平をさす。「江」は江沢民、「胡」は胡錦濤、この二人は鄧小平が指名した国家主席だ。改革解放路線を継続と、経済発展を託されたトップ二人だ。汚職や格差など問題は少なくなかったが、14億人の大貧民国はものの見事に豊かな国になった。
私は1990年代前半から中国を取材始め、リアルタイムでその変貌ぶりを見てきた。
90年代前半の中国はまだまだ貧しく、先進国では想像もつかない光景で溢れかえっていた。例えば中国一の経済都市の上海の朝の風景は溢れんばかりの自転車の大河だった。労働者たちの移動手段は自転車しかなく、その異様な密度はまさに大きな川の流れであった。
当時は日本人が安心して泊まれるホテルは1990年に野村証券が買った花園飯店
(オークラガーデンホテル)しかなかった。毎朝、花園飯店の高層階から怒涛の自転車通勤風景を眺めるたびに、これが13億人の中国なのかと感じいったものだ。
ある時、ふと思った。
「雨が降ったらどうなるのだろう?」
数日後、目覚めると外は雨だった。私は勢いよくベットから窓際に飛びついた。
果たしてそこにあったのは、青色や赤色の色鮮やかなポンチョの大河だった。昨日までのモノクロの川がカラフルな川に一変した壮観な光景は、いまなお脳裏に張り付いたままである。
そんな国が20年で世界第2位の経済大国へ駆け上がったのだ。
経済発展すれば必ずバブル現象が起こり、やがて破綻し、不況に陥る。それは欧米も日本も繰り返してきた歴史だ。人間は何度でも過ちを犯す。経済の浮き沈みは避けられない。そのボラティリティを低減するのが為政者の力量というものだろう。しかし習近平はそう考えない。
「(鄧小平、江沢民、胡錦濤)過去三代が残した問題が、全て(自分に)のしかかってくる。(その処理のため、就任してから)10年も頑張ってきた。だが問題は片付かない。これは、私のせいだというのか?」
と、習近平が言ったと日経は伝えている。独裁者は過去の歴史も書き換える。そんな習近平だから離反する組織も現れてきた。昨年、ゼロコロナに猛反発した市民が中国全土で大規模なデモを起こした。顔認証でデモの首謀者を拘束し、瞬く間に鎮圧可能なのに全国にデモが広がったのは公安がデモを黙認したからに他ならない。明らかな習近平批判である。
今中国で起きているのは不況だけではなく、習近平政権の綻びなのである。