TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

現代の“伊勢商人”

昔、江戸や大阪で繁盛していた商人の多くは地元出身者ではなく、伊勢や近江の商人たちであった。「宵越しのカネは持たぬ」という江戸の町人気質とは真逆だ。伊勢商人の生活はきわめて質素。江戸っ子からは「伊勢乞食」と陰口をたたかれたが、ケチなわけではなかった。ここぞという時には大きく投資をした。だからますます儲かる。江戸を席巻した伊勢商人の代表格は三井、三越、国分など。その繁盛ぶりに江戸の町人たちが嫉妬するのも無理はない。東京の町の和菓子屋に「伊勢屋」が多いのもその影響だろう。
伊勢商人の特徴は「始末」「才覚」「算用」の3Sだと井村屋グループのCEOの浅田剛夫会長はいう。「始末」は質素倹約、「才覚」は商才、「算用」は会計・コンプライアンスである。
じつは井村屋も三重県津市に本社をおく現代の伊勢商人だ。伊勢商人は伊勢に本店をおき、江戸や大阪に大店をかまえた。そこには優秀な番頭を配置し、なおかつ彼らを本店の役員も兼任させることで、伊勢と江戸・大阪間では頻繁に人が往来し、情報も迅速に共有できたという。またお伊勢参りに誘い、本店で豪華にもてなすことは江戸の上客に対する最高の接待にもなったという。
井村屋といえば多くの人が「あずきバー」を思い浮かべるが、事業は多岐にわたり、海外進出にも積極的だ。トランスフォーメーションなど井村屋にとっては日常風景である。そこが凄い。
「あずきバー」は1973年発売で50年販売しているが、日本のスーパーマーケットの9割で販売され、いまなお井村屋の売上全体の20%を占める脅威のヒット商品だが、それにはわけがある。時代に合わせながら味を微妙に変え続けているのだ。もちろん「あずきバー」を越えるヒット商品も現れてきた。DXもCXも伊勢商人の「才覚」があればどうにでもなるのだろう。井村屋の浅田剛夫CEOが語る伊勢商人は興味深いものだった。

「経営者の輪」
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