TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

“水素”の虜に

東京港区湾岸にある川崎重工の東京本社。1階に新たに登場した展示スペースは近未来的だ。KAWASAKIといえばバイクが有名だが、川崎重工は日本の防衛産業の一角をになってもいる。その技術がカーボンニュートラルにものをいってきた。長年培ってきた潜水艦内のCO2除去技術が、Direct Air Capture(大気から直接CO2を分離、回収する技術)に結びついている。

じつは今、川重は水素を柱にエネルギーのサプライチェーンの構築を目指している。最大の特徴は気体の水素をマイナス253度に冷却して「液化」して運ぶこと。安全で毒性もないことから水素キャリアとして最適だが、いかんせんコストが高すぎて、大手商社からは見向きもされない。

現在一般に使われているLNG(液化天然ガス)はマイナス162度。その知見と技術力と関連設備が液化水素でも生がせるメリットも川重の強みだが、新しいエネルギーのパラダイムシフトは理屈では起こらない。

EVで莫大な補助金を投じた中国が世界を圧倒しているように、いまや半導体もエネルギーも国戦略がものをいう時代になってきた。日本は向こう15年間で15兆円の補助金を出すことを決めた。川重は液化水素に関する世界の技術標準とすでになりつつあるが、最後はコストだ。いつまでに、いくらまでコストを下げられるか。川重の橋本康彦社長に、率直に「水素の現在地」を聞いた。水素にはまりそうな予感がする。

“水素”の虜に