TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

文春砲 人の不幸は蜜の味

🟢リ―クの動機は恨み

元気のない出版界で今年も週刊文春だけが圧倒的な存在感をはなっています。破廉恥なスキャンダルで表舞台から消えた有名人もあまたいます。編集方針は明快で「読者が面白い」と感じることだけだと元編集長は明言しています。「巨悪と戦うなんて大嫌い」で、ただただ大衆受けに特化してきたから今があるというのです。そもそも週刊誌は正義漢を装ってはなりません。世間をアッといわせるスキャンダルをぶちまけることこそ週刊誌の存在意義なのです。

スキャンダルの語源は「障害物」や「罠」を意味するギリシャ語で、政治家やタレントなどの著名人が社会的地位を失うような不祥事を指します。スキャンダルとよく似た言葉にゴシップがありますが、この二つは決定的に違います。ゴシップは真偽が定らぬ単なる噂話ですから、書かれた本人のダメージも軽微です。腹は立っても、そのせいで引退に追い込まれたりすることはありません。しかし週刊文春が報じるスキャンダルの後には屍累々です。標的とされた有名人の多くが再起不能に陥っています。旧聞に属す話ですが、報道ステーションのコメンテーターに抜擢され人気が急上昇してたショーンKの経歴詐称事件がありました。

長年ラジオのFM放送でパーソナリティをつとめてきた彼は心地よく響く低音ボイスの持主で魅力的でした。J-WAVEの『MAKE IT 21』に私がゲスト出演した時の彼の印象は頭脳明晰で、経済知識も豊富なナイスガイというイメージでした。その後、活躍の場がテレビに広がっていくのも自然の流れだと私は思っていました。2015年からは報道ステーションのコメンテーターとなり人気もうなぎ上りでした。そして2016年にはフジテレビの新報道番組『ユアタイム〜あなたの時間〜』のメインキャスターに抜擢されることも決まっていました。その矢先でした。週刊文春がショーンKの経歴詐称をすっぱ抜いたのです。

「テンプル大学でMBA(学位)、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。パリ第1大学パンテオン・ソルボンヌに留学」としていた学歴は虚偽だと報じ、その直後に所属事務所も公式ウェブサイト上で詐称を認めたのでした。

真実はテンプル大学ジャパンキャンパスを入学後程なく中退していました。ハーバード大学も、パリ大学も共にオープンキャンパスの授業を取ったのみで、学士を含め学位・修了書が発行されるプログラムには一切参加していませんでした。嘘の代償は甚大でテレビ・ラジオ番組はすべて降板。メディアから完全に姿を消したままです。

ラジオというマイナーな媒体では経歴詐称に対する警戒感もあまりありませんが、地上波の報道番組となれば世間の注目度が違います。週刊文春編集部も「ショーンKって何者?」となって当然ですが、こうしたスキャンダルの多くは持ち込みです。その人物を知る誰かが編集部にネタを持ち込むケースが圧倒的に多いと言います。

「週刊文春には持ち込みネタを専門に扱う部署もあります」

ある文芸春秋社の関係者と話す機会がありました。情報に対する対価はどんな基準になっているのか? 私の問いに対する彼の答えは興味深いものでした。

「今の週刊文春編集部の詳細は知らないが、基本的に対価は払わない。このネタをいくらで買ってくれるのかと言ってくる人も大勢いるが、信頼できる情報は少ない。その人の人生をぶち壊したいという動機、つまり恨みを持っている人の情報が一番信じられる。恨みを晴らしいという人はお金を要求してこない」

🟢報道の裏の裏

ネタをリ―クする最有力の動機は「恨み」であり、金銭的対価の要求なし。納得できる説明でしたが「恨み」という感情は複雑です。やられたからやりかえすといった単純なものでだけはなく、異性関係の嫉妬から権力闘争まで「恨み」の吐き出し方は千差万別です。その最たる好事例として彼があげたのはお笑いコンビ、アンジャッシュの渡部健でした。六本木ヒルズの「多目的トイレ不倫」は衝撃的を与えました。「性のはけ口」にされたという一人の女性の告白が始まりでしたが、その後、被害女性が次々と渡部の異常性を暴露しました。最終的に「渡部VS被害女性3人」という構図になったのですが、文春関係者は「3人の被害女性はつながっていた」というのです。

「被害女性が複数いることは珍しくありませんが、3人がつながっていたんですよ。これは滅多にありません。じつは彼女たちはパパ活をしていて、同じパーティーの常連だったのです。渡部もそこに顔をだしていましたから全員顔見知りでした」

ちなみに新語時事用語辞典は「パパ活」の実態にまで踏み込んだこんな解説があります。

「パパ活とは、経済的に余裕のある男性と一緒の時間を過ごし対価として金銭を得る活動のこと。経済的な援助してくれるパパのような存在のパトロンを探す活動という意味で、2014年にSNSを発端に語感の良さからパパ活という単語が広まった経緯がある。パパ活という単語は年々浸透し、2017年にはパパ活というタイトルでインターネットテレビ配信のドラマも制作された。知名度が年々上昇したことでパパ活をする女性がその後は急激に増え、2020年現在は支援してくれる男性よりも女性が多くなっている。その比率は3対7と女性が男性の2倍以上で、支援者を求める女性にとっては厳しいのが現状である。しかし、支援してくれれば誰でもいいという訳ではないので良質な男性を見極めなければいけない」

こういう流れのなかで渡部の多目的トイレ不倫スキャンダルは起こるのですが、その意味を文春関係者はこう語ります。

「被害女性3人は全員顔見知りで、行為のあとはちゃんと1万円とか2万円の現金をもらっています。金額が多い少ないはともかく、パパ活の延長ですよね。普通に考えると、この3人の後ろには誰かフィクサーがいるんじゃないかと勘繰りたくなるが、週刊文春はそこまで追いかけないし、全貌も書かない。その結果、渡部の性癖の異常性だけが社会の関心事になってしまう。しかし全体像は売れっ子になって調子づいていた渡部に強い嫉妬や恨みをいだいた第三者によって仕掛けられた罠だった可能性が高い」

さらに彼は最近はやりの音声データの危うさについても語っていました。

「音声データは切り取り方によってまったく異なる印象を与えてしまいます。それは事実であっても事実の全体像とは違ってしまうケースもありますよ」

週刊文春に正義などあろうはずがありません。世の中を驚かし、面白いと思ってもらえるスキャンダルを報じることがすべてです。もちろんこれは週刊文春に限った話ではありません。情報には必ず意図があり、なんらかの操作が加えられる可能性は常にあります。肝に銘じておく必要があります。しかし文春砲花盛りの本当の理由は「他人の不幸は蜜の味」と感じてしまう人間の本性です。恐ろしいのはスキャンダルの主人公ではなく、私たち人間の性(さが)です。