株式会社パーク・コーポレーション 井上 英明 氏
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「花と緑を世界で一番広める会社」になる

株式会社パーク・コーポレーション
代表取締役 井上 英明 氏

財部:
(オフィスを眺めて)こういう緑があるだけで、何か空気そのものが違っている感じがしますね――。

井上:
そうですね。僕の場合は家でもこうしているので、当たり前という気がしますが、逆に(緑が)ないと何か変な感じがしますね。

財部:
以前から、オフィスをこんなふうにされていたんですか?

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井上:
本当はジャングルのように、もっと(緑が)あってほしいんですが(笑)。じつは以前、僕がバリ島に行ったときに感じたんですが、目の前の風景は田んぼだらけだし、直線がないんです。ディズニーランドではないですが、一本たりとも電柱はないし、すべてが「自然な線」だと思いましたね。

財部:
なるほど。

井上:
そして、そのあと銀座の当社の店舗に行き、銀座の通りをみて「何か変だなあ、なぜだろう」と考えたら、ウチの店舗から道路の縁のところに枝が出ていて、その線だけがやけに突出してみえたわけですよ。よく考えてみると、都会って、ほとんどが直線なんですね。ビルも直線、サッシも直線、屋根も看板も直線。丸い看板があったとしても、コンパスで描いたような円しかないじゃないですか。

財部:
ええ。

井上:
つまり、(都会に)人間と同じような自然なラインがどこにあるかといえば、植物にしかないんです。だから僕は、もっと真剣に「緑のライン」を広めていかなければならない、と思ったんです。直線で構成されている世界の中で、朝から晩までパソコンをカチカチ叩いてバーチャルな世界にばかり意識を向けていると、これはおかしくなるなあ、と思いますね。

財部:
なるほど。ずいぶん前のことですが、『サタデー総合研究所』という、僕がやっていた番組で、青山フラワーマーケットを取り上げたことがあったんです。そのときは店舗紹介のようなレベルの話だったんですが、御社の特徴について尋ねたら、「(ブーケなどの商品に)緑が入っていて、花の数が少ないですが、手に持ったときにいい感じがするんです」と話していました。そういわれてみると、たしかに珍しい売り方だなあと思ったんですが、それはやはり意識されてのことなんですか?

井上:
僕は「花だけ」というのは不自然だと思うんです。やはり葉があるから、つまりグリーンがあるから花が引き立つんですね。人は自然を思い出すから花をみたいのであって、チューリップにしても、その花だけを眺めていると、かえって不自然で人工的な感じがします。

財部:
そうなんですか。それから井上さんは、早稲田の政経を出られて渡米し、アメリカで会計士になられていますよね。雑誌などの取材でも「別に、最初から花だったわけじゃない」ともおっしゃっていますが、かつて会計士を志した感性の持ち主が、結果として花に至るという、その辺を少しお聞きしたいのですが。

井上:
「右脳」系、「左脳」系とよくいいますが、僕の場合、それがあまりどちらかに偏ってないような気がします。その点、当社のスタッフは、ブーケを作ったりするのが好きな「右脳」系の人が多いんですね。それで、その「右脳」系人間に、数字をガーッとみせると「社長、数字がこう並んでいると、絵柄にみえちゃうんです」というんです(笑)。でも僕は、数字を眺めていると、それがグラフになってみえてきたり、「この数字はお客様のどんな声を反映しているのか」というのを読んでいくのが好きなんです。

財部:
なるほど。

井上:
そうは言っても、僕はデザインも凄く好きなので、「右脳」と「左脳」の中間辺りを行ったりきたりしているようなポジショニングだと思います。実際、僕は店でブーケを作るところまで突っ込んではやりませんし、最初から店長を立て、ブーケを作れる人間を雇って店舗を運営しています。かといって、僕は会計だけでもないですから、何か中途半端なやり方をしているのかなあという気もしますね。

財部:
結果論かもしれませんが、それを僕からみると、井上さんの経営スタイルは、非常にステディにみえるんです。

井上:
そうですか。

財部:
これまでに新しい会社が数多く設立され、若手経営者がたくさん世に出てきたわけですが、要は、ベンチャー企業の一番の問題は「経営の根幹がわかっていない」ということなんです。「ジャストアイディア」というか、ビジネスの面白さにパッと飛びついて、それがたまたまうまく当たる。そして売上が立つ、というパターンが多いのですが、じつは企業経営では、それらをきちんと事業化していく部分が、最も大事なわけですよね。

井上:
はい。

財部:
「ホリエモン」を持ち出すまでもなく、企業にとって大切なのは何を売り、何で売上を立てるかということです。ところが、それにも増して重要なのは、キャッシュや会計の管理であり、財務です。財務がきちんとしていなくて成立する商売はありません。しかし従来、日本の経営者にはいわゆるゼネラリストが多く、「様々な部署を回ってきたが、じつは経理はやったことがない」とか、「決算報告書が本当の意味でよく分からない」という人たちが圧倒的に多かったんです。

井上:
そうですか。

財部:
ええ、世の中全体がそうですよ。でも井上さんは、こうしたベンチャー企業にとって一番危うい部分について、ある意味で非常に安定した経営手腕を持っていると僕にはみえます。

井上:
まあ、数字が好きというか。でも僕は、数字とは、合理化をするときの「点数」のようなものだと思うんですね。

財部:
ほお。

井上:
僕が経理担当者にいっているのは、「きちんとした数字がないのは羅針盤がないようなものだ」ということなんです。数字がなければ、北に進むつもりが「何だ、南に行っていたのか」というとんでもないことになるので、常に座標軸として、きちんとした数字がほしいんです。それに数字がなければ、僕らのやっていることが50点なのか、120点なのか。あるいは130点から140点に上がったのか、ということがわからないから面白くありません。そんな感じで、僕はやはり数字というのは結果だと思っています。

財部:
ある意味で、従来のフラワービジネスというのは、非常に不安定でした。花卉業界はクリーニング業界と同じように、少数の大企業が大きな市場シェアを占めていて、あとは街に中小店舗が乱立しているような状態です。そうした中に、青山フラワーマーケットが突如現れて、従来とは全く違うビジネスモデルを打ち立ててきたところに、僕は面白さを感じているんです。

井上:
やはり花屋さんには「右脳」系の方が多くて、それこそ自分でブーケを作ったり、花に触れられていればそれでいい、という人が多いわけです。でも、それは家業であり、企業ではないですよね。その点、僕は会計を長くやってきたこともあり、花屋が本当に事業として成り立つものかどうか、という目線でずっとみてきました。

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