株式会社ジョージズファニチュア 横川 正紀 氏
今22歳に戻って就職活動するとしたら、職人になりたい。…もっと読む
経営者の素顔へ
photo

変わるべきは流通であり、変えるべきは消費者ではない

株式会社ジョージズファニチュア
代表取締役 横川 正紀 氏

財部:
最初に、スマイルズの遠山会長とのご関係を少し伺いたいのですが。

横川:
遠山さんと最初に会ったのは、じつはスマイルズの遠山さんではなくてアーティストの遠山さんだったんですよ。私は若い頃、父に対する対抗心が強かったせいか、とにかくチェーンレストランの業界には入りたくなかったんです。それは父の会社の方針でもありましたし、いわゆる規格型というかチェーン店型というか、何か1つのパッケージに収められるような事業をしたくなかったんですね。それで常にオリジナルで「自分たちらしい」ものを表現したいと思い、美術大学に入って建築を勉強しました。

財部:
そうなんですか。

横川:
建築といっても、どちらかというとデザイン志向です。卒業後、「インテリア」の業界に入り今のジョージズやシボネをはじめるわけなんですが、その頃、デザイン関連のイベントで、自分たちの作品を発表し合う場がいろいろあったんですが、そこで遠山さんが、白いタイルにご自分で絵を描かれていたんですよ。

財部:
はい、(遠山会長の)三菱商事時代ですよね。

横川:
そうです。その時に遠山さんという「アーティスト」に、僕は出会ったんです。

財部:
なるほど。

横川:
じつはその1年ほど前、ちょうどお台場の『ビーナスフォート』ができた時なんですが、『スープストックトーキョー』の1号店が僕の中ではとても衝撃的で――。15年ほど前、僕が初めてシアトルで『スターバックス』をみたときと同じものを感じたんです。

財部:
それはどんな感覚ですか?

横川:
一人旅をしてアメリカを回っていると、あの頃はまだ夜にカフェなどに行ってもけっこう怖かったんです。そんな時、『スターバックス』をみるとなんだかホッとして、そこでコーヒーをいただいたんです。 その時味わったラテがもの凄く美味しくて、やすらぎをもらったのを覚えています。それと同じように、何か1つの飲み物や食べ物が、人の生活をドーンと変えようとする力を、『スープストック』に感じたんですよね。

財部:
なるほど。

横川:
しかも、デザイン性も非常に良かったので、「これは何なんだろう、きっと日本のブランドではないんだろうな」と思いました。結局その時は、店内に何かバケツやカップがひっくり返ったような照明が並んでいたことだけを覚えていたんですが、そのあと遠山さんにお会いして、「じつは僕は『スープストック』というお店もやっているんだ」という話を聞いた時、「ああ、あのお店ですか!」というぐらい、僕の中では――。

財部:
衝撃的だったわけですね。

横川:
ええ。遠山さんのあの「作品」は、家具、インテリア製品のデザイン・製造販売を手がけるIDEEさんなどが照明や内装をやられていますが、そういえば遠山さんに最初にお会いしたのも、IDEEさんのパーティーだったような気がします。そんなところで何となく、アーティストの遠山さんと僕は会うようになりまして。そのあと、僕が『ディーンアンドデルーカ』ジャパンを始めた頃から、食関係の様々な方とお会いするようになり、改めて「食の世界」の遠山さんに会う機会が増えていったんです。

財部:
今の横川さんのお話は、僕とも若干重なる部分がありますね。僕はニューヨークがもの凄く好きで、ニューヨークに行くたびに、なるべく時間を作って街中をブラブラするようにしているんです。それで6年前、ある友人が「SOHOに面白いお店があるよ」といって連れて行ってくれたのが、『ディーンアンドデルーカ』だったんですよ。

横川:
ああ、そうなんですか。

財部:
それから『青山ベルコモンズ』の近所に、僕がよく行く洋服屋さんがありましてね。で、気がついたら『青山ベルコモンズ』の1階に『ディーンアンドデルーカ』が出ている。ついに日本にもあれを持ってくるような時代になったのか、と思っていたら、それをやられたのが横川さんだというので、僕としても非常に思い入れがあるんです。

photo

横川:
『ディーンアンドデルーカ』は、今僕たちにとって一番新しい事業で、グループの中でも新しい領域です。そもそも僕の事業はインテリアに始まり、それを郊外型の業態から都心型まで展開を広げていきました。それからカフェブームとともに、飲食店を3、4軒ほどやるうちに、流通・食・ブランディングという共通点から『ディーンアンドデルーカ』の事業に入ってきたんですね。

財部:
なるほど。

横川:
『ディーンアンドデルーカ』をはじめるにあたって、僕がインテリアの仕事でニューヨークやパリ、ミラノを訪れて体験したこともヒントになっています。出張の度に展示会や打ち合わせの合い間を縫っては、食料品店には必ず立ち寄っていました。それぞれの国の特徴がとても良くわかるんですよね。ロンドンの『ハロッズ』や『ハービーニコラス』、パリの『ボンマルシェ』、そしてニューヨークの『ディーンアンドデルーカ』、どのお店もとてもエキサイティングで感動したのを覚えています。 中でも私にとっては、やはり『ディーンアンドデルーカ』がズバ抜けていたんですよね。 自分の住んでる街に、「こんなお店があったらいいなぁ」と憧れていたくらいです。

財部:
『ディーンアンドデルーカ』が一番インプレッションが強かったということすね

横川:
そうです。ブランド力もそうですが、ニューヨークのSOHO地区以外にも様々な場所で、観光客を含む様々な人たちが毎日店にやってきて、「いつものあれ、ちょうだい」といったやり取りを、スタッフと交わしているんです。そこで僕らが食べたことのないような食品が飛ぶように売れているのをみていて、本当に凄いなあと思ったんですよね。それからもう1つは、エントランスを入った時の何ともいえない雰囲気。店の奥までドーンと百数十メートルも続く通路に、食べ物が盛りだくさんに積まれています。僕はもちろんデザインもやっていますので、あの洗練された空間のデザイン力にも圧倒されましたね。

財部:
そうなんですか。