キヤノン株式会社 御手洗 冨士夫 氏
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キヤノンの現状に私はまったく満足してない

キヤノン株式会社
代表取締役社長 御手洗 冨士夫 氏

財部:
中国は今、政治的にも経済的にも、世界のなかでとてつもなく大きな存在感を示しつつあります。御手洗さんは、中国でのビジネスに対して慎重な姿勢をとり続けてきたように私には見えました。中国の将来をどうご覧になっていますか?

御手洗:
中国の10年後の姿を確信できたきっかけはWTO加盟でした。これからは関税も下がるし、中産階級の数も増えるでしょう。"輸出基地"から"内販拠点"へと中国の位置づけは大きく変わってきます。今後は、生産を自動化できるような製品は中国から日本に引きあげ、労働集約的でかつ中国国内で売れそうなモノは中国で作るという生産の入れ替えを、10年かけてじっくりやっていきます。

財部:
中国の変化の速度を考えると、じっくり、のんびりという対応には限界がありませんか?

御手洗:
でもね、財部さん。考えてみれば私がキヤノンの社長になって10年たちますが、まだ夢の7割くらいしか達成していないのです。一企業が劇的な変身を遂げようとするだけでも、これだけ時間がかかるわけですから、中国のように国レベルでビジネスを軌道に乗せるのは、相当な時間がかかるのは当然でしょう。

財部:
なるほど。それにしても御手洗さんの「達成感」が7割くらいというのは意外な感じがします。キヤノンはもの凄いスピードで変化し、成果をだしているように見えますが、まだ7割ですか。達成できていない残りの3割とはなんですか?

御手洗:
あまり偉そうに言いたくないのですが、残りの3割は"世界のエクセレントカンパニー"になるということです。できれば世界のベスト100社にはいりたい。米国滞在時代に、超一流企業のトップと親交するなか、私がいだいた夢です。日本国内では、大変ありがたいことに、多くの方がキヤノンのことを褒めて下さいます。しかしキヤノンは、少しばかり早く他社さんより早くリストラをやって、立ちなおっただけ、と思っているのです。私は今のキヤノンの評価にまったく満足していません。やはり世界のなかでどれだけ評価されるか、私のなかでは最重要の価値なのです。

財部:
世界のエクセレントカンパニーといえば、GE(ゼネラル・エレクトリック)やIBMなど、超一流の米国企業の名がうかびますが、それらの企業との比較で自社を評価しようという思考は、やはり長い米国駐在経験と関係があるのでしょうね。御手洗さんは23年間も米国でビジネスをやってこられましたね。

御手洗:
そうかもしれませんね。よく社員には「口だけグローバリゼーションと言ってもダメだ。行動や思考をグローバリゼーションしないと」と言っているんです。

財部:
グローバリゼーション、難しいですよね。米国への留学や駐在経験をもつ日本人の多くはグローバル化ではなく、単なるアメリカ親派になってしまうことも少なくありません。しかし御手洗さんの場合は、米国駐在期間が23年という超長期にわたりました。その経験から得たものもおおきいのでしょうね。

御手洗:
滞在中は、常に日米の歴史・文化・政治、そして経営システムを比較しながら見ていました。重要なのは、アメリカのどこを見て、参考にするか、なんですよ。アメリカというのは非常に多面的な社会で、企業モラル、商品の開発システム、 販売システムと、世界最高の素晴らしいものから極端にレベルの低いモノまで、全部あるんです。人間もそうです。神様のような人から悪魔に近い人までいる(笑)。だからこそ、非常に勉強になるところなんですね。私はそこで一流な人たちと交流し、一流企業を参考にして勉強したつもりです。そして二流、三流の企業は反面教師になってくれた。

財部:
日本では「終身雇用制度はもう終わりだ」「社外取締役制度がなければコンプライアンスは担保できない」などと、米国のシステムを鵜呑みにする風潮が強まりましたが、キヤノンは独自の生き方を貫いてきた。理由はそこにあったのですね。