パナソニック株式会社 中村 邦夫 氏
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経営者の素顔へ
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"学ぶ心"がないといけません

パナソニック株式会社
取締役社長 中村邦夫 氏

財部:
キヤノンの御手洗さんとの出会いは、どのようにして始まったんですか。

中村:
1997年、アメリカから帰国し、専務・AVC社担当をしておりました当時のことです。アメリカの大先輩であった御手洗社長に是非おめにかかりたいと、私の方から押しかけてゆきました。お食事をご馳走になり、いろいろお話を伺ったんです。そのときに「松下は今のままじゃだめだよ」とおっしゃられましてね。

財部:
中村社長の方から押しかけていったというのは意外ですね。すべて自分で考え、自分で決めていくというのが中村さんではないか、というが私の印象なのですが・・・。

中村:
もちろん最後はそうです。自分で考えて自分で決めるよりほかありません。その当時、日本の松下の経営というのは分社経営でした。それをどうしたらいいのか、御手洗社長にお話を一度伺おうと思ったんです。

財部:
それにしても、なぜ御手洗さんにお話を伺おうとされたのでしょうか。

中村:
御手洗さんは1991年に、すでにキャッシュフロー経営を実現されていました。あの当時、BS(バランスシート)から見た経営を実現していた企業はまれで、差別化された独特の事業展開をしておられました。しかも、それがダントツにすばらしい業績を上げいらした。"先生"になってもらうには一番いい方だ思い、押しかけたのです。それ以来、ずっとおつき合いいただいているんですが、常に先輩と後輩です。もっと極端に言いますと、先生と弟子といいますか、事業を離れておつき合いさせていただいており、とても感謝しています。

財部:
中村さんにそこまで言われたら、御手洗さんも喜ぶでしょうね。しかし、くどいようですが、わが道をいくという印象が強い中村さんが"先生"を求めていくという姿勢は、とても意外な感じがしますね。

中村:
常に先生を求めていないとだめですよ。特に大阪におりますと、みなさんが「松下さん、松下さん」とおっしゃるものだから、知らず知らずに井の中の蛙になってしまいます。武田薬品の武田会長も「大阪にいると、それになじんでしまって、飛躍も何もなくなる。だから、本社は大阪の道修町だけれども、自分はずっと東京におる。中村さんは週に何日ぐらい東京に来ておられるんですか」と言われたことがありましたよ。同じ問題意識だと思いますね。ちなみに私は1週間のうち2日ぐらいは東京にいます。

財部:
常にそういうものを求めていかなければならないという「危機感」のようなものがあるのですか。

中村:
創業者の松下幸之助が「学ぶ心」を持ってなければいけないと言っています。そうでないと「これでいいんだ」という独善や自己満足に陥ってしまいがちになります。あるいは自分自身で限界を感じることもある。そんな時に、数段上の経営者のお話を聞きますと、これはやらなきゃいかんなという気持ちになるんです。トヨタ自動車の張富士夫副会長も、私にとってはそういう方です。

財部:
張副会長もトヨタのトップでありながら、本当に腰の低い、すばらしい方ですよね。

中村:
大先生です。