株式会社LIXIL 代表取締役社長兼CEO 藤森 義明 氏

藤森:
リーダーシップというものに対する気づきです。私は35歳でGEに入って、次の年の36歳でグローバルなリーダーシップトレーニングを受けたのですが、その時に感じたのは、「リーダーシップってなんだっけ」。思わず辞書引いたくらいです。

財部:
なんか、わかる気がしますね。

藤森:
そのくらい日本ではリーダーシップというものが議論されていません。でもGEでは35歳程度で一カ月間トレーニングを受け、リーダーシップとはこういうものだという気づきが始まるのです。そうなった瞬間に毎日考えるようになり、リーダーシップのジャーニーが始まるのです。常に自分を高めて、自分のリーダーシップ論を形成していく。そうしたプロセスを経た結果、できるようになるわけです。だからまず第一歩としての気づきを起こさせて、どうやったら自分を高めていけるかを教えていく。そして最後に社長就任演説をやる。社長になったらこの会社をどこへ導いていきたいのかスピーチさせるのです。このトレーニングで彼らは、リーダーシップとは何ぞや、という気づきを得た瞬間、次のポジションになったら何をやるか、社長になったら何をやるかということを常に考え、それをみんなに伝える力が大事なのだということが分かってくるのです。

財部:
今のお話で、リーダーシップジャーニーが始まる前、研修に一か月出て、気づきを得たとおっしゃいましたね。その時の、最初のプリミティブな気づきというものは、具体的にはどのようなイメージだったのですか?

藤森:
リーダーシップとか、リーダーについて書かれた本を読むと、神から授かった能力、人を惹きつけるカリスマとか、そういうものに結びつきがちですが、実はそうではなくて、リーダーをつくるのは“地道な変革のプロセスなのだ”とわかるのです。それは何かと言うと、現状に満足せず、もっと高いところに自分を持っていこうとする意識。そのために常に学ぶ。そして人に伝えて、人を動かしていく。この繰り返しなのだなと。カリスマ性を持った歴史上の人物を挙げられても、ああはなれないと思ってしまいますが、そうではない、毎日努力をして、変革のプロセスをきちんとこなしていくことがリーダーなのだと。それが分かった瞬間、自分で変革のプロセスを作っていけば良いのだということが分かるわけです。その結果、自分のリーダーシップ論とか経営論というものが生まれて、人を惹きつける力とか凄みが後から付いてくるのです。そういうリーダーシップの本質に一か月で気づけたのは良かったと思います。

財部:
説得力のある話ですね。日本ではそのようなリーダーシップに対する明確な話は聞けません。

藤森:
そうですね。アメリカに辞書を持っていってよかったと思います(笑)

天国に行くか行かないかは、自分で決める

財部:
アンケートで非常に興味深いものがいくつかありますが、趣味のピアノというのは、昔、やっていたのですか。

藤森:
いや、去年の3、4月くらいから始めたのです。

財部:
そうですか。右脳左脳のバランスを改善する?

藤森:
これもリーダーシップジャーニーの一つなのですけど、もっと自分を高めていくためには何が必要かと考えると、自分自身、音楽とか感情、エモーションというものが欠けているかなと感じるわけです。左脳に偏る、右脳に偏るって言われますけど、バランスをとらなければいけないなと思います。

財部:
そうなのですか。

藤森:
またピアノは両サイドの鍵盤を見ることで視野が広がる。例えばゴルフのパッティングも全く変わるのだと。ピアノ両サイドに広がる鍵盤を見る、ゴルフボールとカップを見る、これは同じわけです。

財部:
ユニークですね。

藤森:
視野が広がるということは、非常に大事なことだと思います。私は家に帰っても、時間が30分でもあると、必ずピアノを弾いています。挫折しないように必ず週一回は先生のところへ行きます。

財部:
それは何かの曲を弾くのですか?

藤森:
はい、曲を弾いています。今はベートーヴェンの月光のソナタ、これはマスターしました。

財部:
すごいですね。僕が習った時は、先生がバイエルを出してきたので、そういうことはしたくないと。それで、涙のリクエスト(笑)それ一曲マスターしたところで、旦那さんの転勤で引っ越してしまいました。次の先生を探している間に終わってしまったのですが、ピアノの効用は分かる気がしますね。このNFLのトム・ブレイディ選手、スーパーボールではペイトリオッツが勝ちましたが、彼は特別な存在なのですか?藤森さんも大学でフットボールをやられていたのですよね。

藤森:
大学でやっていました。私がGEでプラスチックスのCEOだった時、ちょうどペイトリオッツが新しいスタジアムを建て、GEがそのスポンサーになったのですが、私の判断で10年間の契約を結んだのです。それでオーナー、オーナーの息子と親しくなって、スタジアムに応援しに行くと、「おーい、フジモリ」ってグラウンドに呼んでくれるようになったのです。グラウンドに下りていったら、トム・ブレイディを呼んでくれて、お前もフットボールやっていたのか、という話になって。すると彼が歩いて行って、ふっと振り向いて、ボールをひゅっと投げて、「that’s yours」と。

財部:
格好いい話ですね。

藤森:
格好いいですよ。特別にサインをしたものではないけど、トム・ブレイディが汗を流して練習をしたボールを直接もらったんです。その時、彼はまだ出てきたばかりでした。

財部:
まだスーパースターじゃない頃?

藤森:
スーパースターになりかけの頃ですね。それから12年間、彼はずっとスターダムが続いているわけです。そんなNFLの大選手とグラウンドでフットボール談義をして、ボールをポンともらう。これはなかなかできない経験ですよね。

財部:
GEのCEOならではのスペシャルな体験ですね。最後に、天国で神様になんと声をかけてほしいですか、という質問、これ非常に個性が出るところですが、No Answerというのは。

藤森:
いやいや、会ってお話すれば良いかな、と思ったのですけれども。

財部:
天国には行かないのだ、という意味かと思ったのですが、そうではないのですね。

藤森:
本心はそうなのですが、私はおみくじとか、占いとか、全くタッチしないし、ある意味で無信教なので、夢は何かと言ったら「control your own destiny」。自分の行き先は自分で決めるのだ、と。だとしたら、天国に連れていかれるという話もないのだろうな、と。

財部:
これは座右の銘に連動しているのですね。なるほど。

藤森:
誰かに与えられた設定どおりにはいかないよ、という感じですかね。

財部:
最後まで自分独自のジャーニーを貫くということですね。今日はありがとうございました。

(2015年2月5日 LIXIL本社にて/撮影 内田裕子)