株式会社LIXIL  代表取締役社長 藤森 義明 氏
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リーダーシップとは“地道な努力のプロセス”である

株式会社LIXIL
代表取締役社長兼CEO 藤森 義明 氏

財部:
まずはご紹介者の魚谷さんとのご関係ですが、とても仲が良いということは伺っていますが、おふたりはしょっちゅうお会いになっているのですか?

藤森:
結構会っていますね。元々どこで知り合ったかと言うと、「外資系トップの仕事力」という本を出版するお話があって、外資系のトップ10人くらいが集まって、それぞれのストーリーを話したのです。私はGEのストーリー、魚谷さん(現・資生堂)はコカ・コーラのストーリー、原田さん(現・ベネッセ)はマクドナルドのストーリーなどと、外資系企業でどんな仕事をしてきたかという内容でした。そのメンバーでパーティをやっているうちに仲間ができてきて、その中でも魚谷さんとは非常に気が合いました。志も同じで、お互い60歳くらいになったら日本のために何かやろうね、という話をしていました。彼はマーケティングという力を持っているので、彼がコカ・コーラを辞めて、私がLIXILに入った時に、二年ほどLIXILに来てもらってマーケティング改革をしてもらいました。そういう意味では毎日一緒に仕事をしたのです。今は資生堂で社長をやっていますが、ずっとお付き合いしていますね。

財部:
魚谷さんというのは、人の心を掴むことが格別に上手ですね。インタビューした時のこちらの質問に対する答えも、基本的にものすごく具体的なのです。絶対に伝わるように、象徴的なエピソードを語り、そのエピソードに語らせる。だから聞いた話がずっと頭に残るのです。若い頃の留学先での話は、会社に黙って帰国しちゃうか、という厳しい局面をどう乗り切ったか、失敗談も非常に面白く正直に語ってくださる。ああいうところが本当にお上手。意図的なところではなく、お人柄によるところなので、すごくインプレッシブです。

藤森:
そうですね。

財部:
3年前にBS日テレ「財部ビジネス研究所」でインタビューをさせていただいてからずっと改革の勢いが落ちないというのはすごいなと思います。たまたま決算の方は若干マイナス、ということなのでしょうけれども、何も変わっておられませんよね、方向は。

藤森:
今回の決算は谷間だと思っています。長い目で見ると、変革には山も谷もあります。今回ちょっと落ちましたけれども来年は上がります。大事なのはちゃんと変革が実行され、成果が長期に出ていくことなのです。

財部:
今、市場の関係者は、日本の会社は大きく変わり始めているということを認識していますね。

藤森:
そうだと思います。投資家からROEなどの要求が増えてきて、日本の会社もそれに応えられるようになってきました。昔は体裁だけ整えておけば良かったのが、今はそうはいきません。今、うちの株主は45%が海外です。グローバルな会社になっていけばなっていくほど海外の株主にも責任を果たさなくてはなりません。

ウェルチとの会話で「これで終わった」と思ったことが二、三度あった

財部:
藤森さんがLIXILでやってこられたことを拝見して、また今回このアンケートを見ても、やはり藤森さんの中ではジャック・ウェルチがありGEがある。いま、やっていることとぴったり符合しますね。

藤森:
そうですね。自分の人生観、経営論やリーダーシップ論を築くのは、だいたい35歳から45歳くらいの間の10年間だろうと私はいつも言っています。そこである程度確立されていなければ、50歳近くになって急に経営をやれと言われてもきっと無理だと思うのです。私はたまたま35歳から45歳までGEにいてジャック・ウェルチに学びながら、自分なりの経営論を確立することができました。それを今、どんどん試しているところです。私がGEのオフィサーになったのが45歳ですが、これからは教えてもらうのではなく、自分の確立したものを試しながら磨いていくのだと気持ちを改めました。

財部:
僕も個人的には、人生は30代が全てという考え方です。30代の時に何を学んで身につけたかで、その後の人生は決まると考えているのですが、その点でぜひとも伺いたいのは、GEでの学びの中で、実際ジャック・ウェルチとどういうやり取りがあって、何を身につけられたのか。それが一番大きな経験となっておられるのではないかと思うのですが。

藤森:
彼とのやり取りの中で、バコーンと強烈な指摘があって、“ああ、自分はこれで終わったな”と思ったことが二、三回はありました。

財部:
そのくらい厳しく言われたということですか?

藤森:
ものすごいですよ。それは自分に向けられるものだけでなく、いろいろな会合の中で、彼が他のリーダーたちに何を言うのか、ずっと見てきたわけです。彼の質問はすごく鋭いのですが、例えば、ビジネスの結果が出ると、偶然できたものなのか、それともちゃんと戦略を立て、プロセスをつくった結果できたのかを、見極めようとするのです。彼が見ようとしているのは、このリーダーは人を惹きつける魅力があるかどうか。つまり人を動かして結果を出したのかどうか、その中にプロセスと戦略があったのか、ということを見抜こうとするのです。

財部:
結果がすべて、というわけではないのですね。

藤森:
そうです。プレゼンテーションで、良い結果ばかり強調する人が多いのですが、大切なのはどういうプロセスでそれが成功したのかを説明することなのです。そこをウェルチに突っ込まれると答えられなくなってしまう。結局、「お前偶然できただけじゃないか」、と。そういう人たちはGEからいなくなっていくのです。

財部:
それはGEの幹部の中で、ということですか?

藤森:
そうです。あとはGEでは変革を遂げない人、変革を起こせない人、人材を育てない人は評価されません。人に対してアクションを取れないのもダメです。つまりこの人材はダメだと判断したらすぐ変えなければいけないのに行動を起こせない。こういう人はどんどんGEを去ることになります。リーダーとして、自分がやらなければならないことを先に先に手を打っていくのです。その人材が適切ではないと思った瞬間にもう次の人を考える。そういう決断の速さ、アクションの速さが要求されます。例えば、ダメ出しをされた人材について、ウェルチに「彼はどうなった」と聞かれ、「あの、それは・・・」などと口ごもった瞬間に、米国流の口調で厳しく責められます。自分もやられたことがありますし、同僚がやられているのを何度も見ました。そういう日常の光景から何を吸収するかということなのです。自分自身の経験もさることながら、他者とウェルチとのやり取りを見て学ぶことはかなり多かったです。当時ウェルチの言葉を書き留めたノートはいまでも取ってあります。

財部:
この人材ではダメだと言われ、すぐに次の人を選ぶ。そのダメだった人間を替えるというアクションと、新たに人材を補充するアクションはまったく違う作業ですよね。

藤森:
そこがGEのすごいところで、新しい人材がどんどん出てくるのです。例えば、誰かが走っていて、後ろをちょっと振り向いた隙に、さっと抜いていく。GMにしても、ビジネスリーダーにしても、ヴァイスプレジデントにしても、どのポジションにも、必ず3、4人のバックアップがいる。そういう深いパイプライン、バックアップの深い組織、それがGEの強さなのです。

財部:
なるほど。優秀なストックが絶えず後ろに控えている。

藤森:
すごい数のストックです。優秀なストックを作るプロセスをGEは確立しているわけです。

優秀な人材100人を常に頭に入れておく

財部:
藤森さんは、それをLIXILの経営にも持ち込んでいるのですか?

藤森:
我々は今、POD(People Organization Development)というものを年に二回やっています。GEと同じなのですが、社内のどこに優秀な人材がいるかを知るためのものです。横軸がリーダーシップ、パフォーマンスを縦軸にして分布図をつくり、九つの領域に分けます。リーダーシップがあって、尚且つ結果も出しているのは一体誰なのか、あぶりだすのです。私の頭の中にはだいたい100人くらいのストックがありますが、こうしておくと、今回のような組織替えの時に、優秀な人の顔が浮かんできて、的確に配置をすることができるのです。このようなプロセスをつくることによって、私が常に社員を観察することになります。経営トップが常に優秀な人材100人くらいを頭に入れておくのは当然のことのように思います。