小林製薬株式会社 代表取締役社長 小林 章浩 氏

財部:
私は、小林製薬の「あったらいいなをカタチにする」という製品に対する考え方も素晴らしいと思っています。

小林:
ありがとうございます。「あったらいいな」というキャッチフレーズは、10年ほど前に、われわれ幹部に加えて社員もかなり入り、小林製薬という会社のブランドをどうしていこうかと考えた時に作ったものです。それまで当社では、テレビ広告で社名を言っていませんでした。たとえば、のどの殺菌・消毒薬『のどぬ〜る』は、『のどぬ〜る』、『熱さまシート』は『熱さまシート』という商品名だけ覚えてもらったらいいというのが、当社のポリシーだったのです。

財部:
そのポリシーが、どう方向転換したのですか?

小林:
ここまで製品が増えてくると、消費者の皆さんに『のどぬ〜る』も『消臭元』も小林製薬の製品だったのかと気付いていただくことで、会社のブランドにも個々の商品ブランドにも貢献する相乗効果があると考えました。そこで広告の冒頭にも「あったらいいな」という文言を出して、「あっ、小林製薬」とナレーションを入れ、イメージを結びつけるようにしたのです。われわれが毎朝、社内で読んでいる「ブランド憲章」には、「お客様も気付いていない必要なものを発見し、『こんなものがあったらいいな』をカタチにして、一刻も早く送り届けます」と書いてあります。

財部:
そうですか。

小林:
本当の思いは、お客様も気付いていないものを、「これはどうですか?」とお出しして、「そうそう、こんなものがあったらいいと思っていたんです」と言ってもらうことなのです。お客様も実は商品を見て今気付いたのですが、「こんなものがあったらいいなと思っていた」という言葉を引き出す。そういう気持ちなのですよね。社員は皆わかっているのです。

財部:
なるほど。私はアイケア製品の『アイボン』のヘビーユーザーなのです。私は乱視がひどいものですから、ソフトコンタクトレンズが使えません。ずっとハードコンタクトレンズなので、目の負担が大きいのです。帰宅してコンタクトレンズを外し、水道水で目を洗っていましたが、『アイボン』が出た時に「こんなものがあるのか」という驚きがありました。それ以来、ずっと使い続けていています。

小林:
ちゃんとゴミも取れますよね。

財部:
目に見えて取れるところが素晴らしいですよね。私は『アイボン』で洗眼してしばらくしてから、目薬を差しています。

小林:
本当は目薬なしでもいいようにしたいのですが、そう簡単にはできません。

財部:
そうですか。その意味で、楽しくまた苦しい部分もあるのでしょうけれど、自分のクリエイティビティが形になるのは、社員にとって非常にハッピーなことです。そういう効果を意識しながらやってこられているのですか。

小林:
はい。まずは学生ですね。新入社員を採るときに、「うちの1番の魅力は、来年の今頃は何か自分で出したアイデアをもとに開発を行い、その翌年には商品を発売していることだ」と話しています。そういうことは普通の会社ではほとんどないですよね。1個の製品を作るのに、何人もメンバーがいるチームの中で、分析だけを担当するというのが普通の会社の仕事。でもうちでは来年になったら担当者です。そこにわくわく感を抱いて下さる人が、会社に入ってくれていると思います。入社したらまず自分でアイデアを出し、それを形にしていくのです、最初からエンジン全開で。

財部:
あえて細かい話を伺いたいのですが、1つの製品のアイデアが出てから、それが商品化されるまでのプロセスはどうなっていますか。何人ぐらいで、どんな作業をするのでしょうか。

小林:
最初はアイデア提案です。従業員は全員、月に1個はアイデアを考えなければいけません。

財部:
どの部署にいてもですか?

小林:
はい、経理も広報もです。必ずしも新製品である必要はなく、業務改善の提案でもいいのですが。製品開発やマーケティングに携わる人たちについては、たとえば芳香剤のカテゴリーなら、そのチームで毎月2、3個アイディアを固めてもらい、私の前でプレゼンしてもらうのです。全部で7カテゴリーありますが、そこで(開発を)やるかやらないかを決めます。先週の金曜日も、4時間半で7、80個のテーマについて担当者と会議をしましたが、そこで通ったものについて、調査をかけていくのです。

財部:
だいたい何個ぐらいのアイデアが会議を通るのですか。

小林:
調査をかけるものが年間70個ぐらいですから、月に6個程度ではないですか。調査では、1番簡易なものだと、「コンタクトしたら目がちくちくしますよね、そんな時に洗眼薬はいかがでしょう。洗顔薬で洗うと目がすっきりして汚れも取れます」という、テレビ広告をマンガ1枚にしたようなものを作るのです。それを消費者に見てもらい、商品を買いたいか、どこが魅力かなどを調査します。社内のノーム値(基準値)をクリアしたら試作を行い、試作品を実際に使っていただき、パフォーマンスが満足したら、いよいよ生産です。

財部:
まず先にアイデアありきですよね。アイデアを出した担当者が全部自分でやるのですか。

小林:
1つの製品に4人がつきます。研究開発担当者、パッケージや商品コンセプトを作る担当、容器および生産ラインの設計担当者、あとは広告を作ったり販売を統括するマーケティング担当者の4人が1チームで活動します。

財部:
なるほど。宣伝にも力を入れていますよね。テレビを見ていると、小林製薬のコマーシャルがどんどん目に飛び込んできます。ある意味で、そこに大きなコストをかけているわけですが、それでも売れない場合もあるのですか。

小林:
ありますね。

財部:
予定通りうまくいったというケースと、コストをかけて広告を打っても今1つというところで消えていくものの比率は、どれくらいなのでしょうか。

小林:
うまくいくということにも基準があると思いますが、投資を回収すればよいということであれば3、4割はあります。中でも本当にうまくいっているのは、『熱さまシート』のように、10年後も大きな利益を稼ぎ、お客様に非常に浸透しているもので、そうなると年に1、2個。できれば3個は、10年後にも残したいところです。いま年間で30個の新商品を出していますから、約10%になりますね。

財部:
それは高い確率とも言えますね。10年後も売れる商品が毎年、次々と出てくるとしたら素晴らしい話です。

小林:
『熱さまシート』までの売上高になるとしたら、10%はないかもしれませんね。

財部:
『アイボン』は、その部類に入るのですか。

小林:
『アイボン』は優秀な、トップ10に入るブランドです。

財部:
固有名詞が一般名詞化していますよね。「『アイボン』をください」と尋ねると、「『アイボン』はないのですが、こういうものはあります」と言われますから。

小林:
うちは全部、自分で市場を作っているのです。『のどぬ〜る』も『熱さまシート』もそうですが、シェアはすべてトップなのです。市場は小さいですが、競合先がほとんどありません。シャンプーも洗濯洗剤もやりませんし、既存市場にはほとんど商品を出しませんから、競争がないぶん利益率は高いと思います。その中から広告費も出し、新しい市場を作ることに専念しているのですが、なかなか「生みの苦しみ」で…。

財部:
M&Aにも積極的に取り組まれていますが、開発などの流れの中で行われることが多いのですか。

小林:
それもあります。たとえば女性の更年期障害向けの製品を出したかったのですが、なかなか良い処方がなく、たまたま笹岡薬品さんが『命の母A』をお持ちでした。同商品の売上高がずっと落ち込んでいたこともあり、笹岡薬品さんから事業を譲り受けたのですが、うちは販売力もあり、広告も比較的上手に作ることができていたので、いまは売上高が10倍になっているのです。

財部:
そんなに変わるものですか。

小林:
そうですね、われわれからすれば新製品のようなものです。『命の母』というブランドは、これで再生できました。111年の歴史を持ったすばらしい医薬品を譲り受けましたが、さらに100年間生きながらえさせることができるだろうと思っています。

財部:
逆に『ポリデント』は事業売却を。それは、得意分野と不得意分野で売る効率を考えてのことですか。

小林:
そうではありません。『ポリデント』はうちの利益頭のブランドでしたが、残念ながら当社はアメリカにあるメーカーの日本での販売代理店だったのです。「おじいちゃん、お口臭い」という広告をうちが出して大ヒットさせ、一大ブランドに育てました。そのメーカーが「自社でやります」ということになったのですが、よくある話です。

財部:
そういうことだったのですか。

小林:
そこで出したのが「タフデント」なのですが、3割しかシェアを取れていません。

財部:
なるほど。健康産業はある意味で成長分野なのでしょうけれど、競争が非常に激しく、ありとあらゆる業種の会社が参入してきます。最近もDeNAが個人向け遺伝子検査サービスを8月中旬から提供すると発表したばかりです。南場さんは私もよく知っていますが、ソーシャル・ゲーム会社ですら遺伝子検査サービスをやろうというところまできていますよね。こうした競争環境をどう認識されていますか。

小林:
非常に危機感がありますね。製薬業界も、新薬の開発に何億円もかける医療用医薬品の世界から、今はOTC(一般用医薬品) と呼ばれている、われわれのような家庭薬の世界までありますが、医療費における保険料負担が増加し国家財政が悪化しているので、OTCが伸びなければならないのですが、OTCの市場はシュリンクしているのが現状です。その一方で伸びているのが健康食品。トクホ(特定保健用食品)を始め、サントリーさんなどの食品大手が、健康維持に効果のある食品を開発しています。(トクホは)国の承認が得られれば、広告で堂々と(「特定の保健の効果」や「栄養成分の機能」を)表現できますから、非常に厳しい競争が繰り広げられていますね。当社ではたとえば杜仲茶の『杜仲源茶』がトクホに認定されており、血圧が高めの方に適しています。

財部:
本当ですか。毎年健康診断に行くたびに、血管が固くなっていると言われているのですが、それでノンカフェインなのですか。

小林:
はい、ノンカフェインです。薬事法の制限もあるのでなかなか上手に売れていませんが、そのあたりをしっかり研究し、表現できるように国の許可を取って売っていかなければいけないと思っています。