株式会社安川電機 利島 康司 氏

産業観光という視点でロボット村をつくっていく

利島:
私どもの本社工場は北九州ですが、安川電機はもともと親会社であった明治鉱業で使用するモーターを作る工場だったのです。1915年の創立ですが、今でも94年前にできた建物が半分以上残っているんです。そういった中で最新鋭のロボットが生まれているのです。建物は古いけど、製品は新しい、という面白さがあります。

財部:
そうですか。

利島:
これはまだ夢の範囲ですけれど、工場の歴史は残しながら、いずれ新しく変えていかなければいけない時に、「ロボット村」というエリアをつくって、自社のロボットと高齢者が同居する実証住居みたいなのを作ったり、最新鋭の産業用ロボットが、ベテランの技術者をサポートしながら、技術伝承を受けてロボットを作るというラインとか。そういうものをつくれたらいいと考えています。

財部:
非常に面白いプランですね。

利島:
古い建物の中に最先端の生産ラインがあったり、壁にICタグが組み込まれた最新鋭の住居の中で人間とロボットが生活したり、まず安川電機でやってみて、世の中の人に見てもらいたいのです。そして、産業観光的な場所として外からどんどん来てもらって、ここで実験していってくれれば良いと思っています。

財部:
実際、実用化しているロボットはありますか?

利島:
リハビリテーション用のロボットをまだ数十台ですが、病院に販売しております。

財部:
もうすでに売っているのですか。

利島:
はい。例えば、脳梗塞を患って下半身が不自由になられた方は、早い時期にかなり長い時間、膝の屈伸を繰り返す必要があるようです。しかし、リハビリをサポートする人がかなり重労働になるので、実際あまり出来ないようです。だからそこをサポートする「リハビリテーションロボット」というのをつくり、数十台売れています。ただ、残念なことに保険が付きません。これは何とかならないかと、友人の医者に聞いたりするのですが、「医術はまだロボットに負けていない」というような話にもなったりしましてね(笑)。でも、この分野から少しずつ広げていこうと思っています。

財部:
そうですか、面白いですね。社会的インフラが追いついてこないとダメですね。

利島:
でも、ロボットの進化が進まないと、ロボットの世界にはなりません。我々の技術がもっと進化すれば周りも動いてくると思うのです。それで、今作っているロボットはできるだけ人間的にしています。例えばこのロボット(単腕)ですが、今までよりもっと足元の仕事ができるようにしないと、人に近い作業ができないというニーズがありました。そこで、このロボットの腕は自分の足の下まで届くようにしています。小さなモーターをつくって、さらに手首の先にもう一つ小さな関節をつくりました。自分のポケットにロボットの指が入るということまで出来ます。これが今、最新鋭のロボットです。

財部:
ほう。すべての関節が自由自在に動きますね。

利島:
これで家電やデジカメを組み立てるとか、、現在、多くの用途開発をしようと頑張っているところです。例えばこの双腕ロボットは一つのコンピューターで両手を動かします。これだと右腕、左腕をうまく制御してぶつかることがありません。片腕のロボットを2台並べて置いてしまうと、コンピューターも2台になります。この間に信号を渡して相手がどっちに動いたかというのを常に情報を渡しておかなければ、ぶつかってしまうのですね。これはそれをしなくて良い。両腕で同時にネジを締めるなどできるようになります。

財部:
1台で2台分の動きですね。

利島:
あと、人と共存するという「スマートパル」というロボットをやっていまして、これは指を持っていて、細かい作業ができるようにしています。研究者が今取り組んでいるのは、りんごを片手で持ち、もう片手でナイフを持って皮を剥くというものです。うちの若い研究者がやっていますけど、もう少しかかりそうです(笑)。

財部:
限りなく近くまでには来ているんでしょうね。

利島:
はい、近くまで来ています。

財部:
どんなりんごもむけるのですか。

利島:
当面は決まった大きさで良いと。そうすると患者の方に、今日は小さいのとか、大きいのとか言わずに、せめて2種類位の大きさのリンゴで我慢して下さいというような事をお願いしないといけないのですがね(笑)。

財部:
(笑)でも、それは大変な技術ですね。

利島:
幸いに若いエンジニアがみんなやりたいといってくれていましてね。ロボットが冷蔵庫を開けてジュースを取る、牛乳を取る、話し相手をするとか、こういう事くらいは実証実験ができるような事になるのではないかと思うのですけど。これは当然、家の壁とかドアに信号を発信する機能が入っているのですけどね。

財部:
そのような社会を社長はいつくらいまでに実現したいですか。

利島:
ロボット村を作るのは、早ければ3年後とか5年以内には実証実験の部屋が出来るようにはしたいと思っております。

財部:
そこで、外国企業とのコラボレーション・技術力のコラボレーションというのは考えているのですか。

利島:
それも同時に平行してやりたいですね。ロボット村にはいくつかの教室があって、そこにフィンランド部隊との共同研究室があるとかね。

財部:
最後に非常に景気全体が悪くなっていますが、経済的にはあと2年なり3年なり厳しい状況が続くのかなという感じはあります。安川電機さんの今後の見通しなり対応なりはどのようになっていくのでしょうか。

利島:
思いのほか厳しいと思っておりますけれど、それだけを言っておられませんね。その中でも新興国はじわじわと生活レベルが上がっていますので、消費は伸びていくでしょう。新興国も自立性の為に新しい産業を自主力でやろうとするでしょう。そういう所はマーケットとしてチャンスがあるのだから、しっかりやります。ここまで成長してきたわけで、向上心とか自立心というものはそう簡単には止められないでしょうから。

財部:
私もアジアのマーケットには大変期待しています。

利島:
アジアのマーケットに商品を持っていきます。今までの普通のモーターというのは、100電力を入れると100出力が出ずに、50とか60しか出てないのですが、これからはエネルギー効率が要求されます。100入れたらせめて80ぐらいはでるような新しいモーターに変わっていくでしょう。そういうものが、中国やインドへぽつぽつ出てくると思います。ぽつぽつですが、マーケットそのものが大きいから、そこそこ行くと期待しています。

財部:
そうですね。

利島:
あと、景気の悪い中でやっておきたいという中のひとつに太陽光発電。これは国の政策でもやっていくでしょうけど、当社がシェアを50%以上持っている液晶ガラス搬送ロボットの技術を活用し、太陽光パネル製造への利用も十分できます。今後の受注拡大に期待しているところです。

財部:
これまでの技術がいろいろ使えるのですね。

利島:
そうです。うちは現在、売上が4000億円をいくかいかないかの会社ですが、既存が落ち込んでも、新しいマーケットを探す事で、これまでの水準をカバーできると考えています。維持しながら1、2年待つ。その間、新しい技術開発にはしっかりお金を使います。7、8年前まではあんまり儲かっていなかったのですが、ここ数年で貯金が大分できました。それを元手に設備投資か開発投資、あとはM&Aなどをやりながら、会社は向上していくと思うのです。

財部:
それは頼もしいですね。

利島:
はい。頑張れるだけ、頑張ろうという思いでやっております。

財部:
明るいお話を聞いて、ほっとしました。是非、北九州の工場にお邪魔したいと思います。その際はよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

(2008年10月17日 東京都港区 安川電機東京支社にて/撮影 内田裕子)