住友電気工業株式会社 社長 松本 正義 氏
宝物は一隅を照らす部下(是国宝なり)…もっと読む
経営者の素顔へ
photo

研究開発に邁進し、新しい製品をつねに世に問うていく

住友電気工業株式会社
社長 松本 正義 氏

松本:
2年ほど前、TBSのテレビに出たときに、榊原英資さん、嶌信彦さんと3、40分ほど対談をしました。当時はライブドアの堀江前社長が、もう日の出のような勢いで皆にもてはやされていて、まさにそのピークだった頃です。

財部:
ほお。

松本:
そこで何も準備なしに突然、「松本さん、(彼のことを)どう思いますか」と質問を受けました。僕はああいう若い人が何か儲け至上主義であぶく銭を取ることだけ考えているし、しかも正々堂々とは思えないので、「私は非常にネガティブです」と答えました。あのとき番組に出られた方は、皆びっくりしていましたね(笑)。

財部:
でも、それは珍しいですよね。

松本:
当社はメーカーとして、やはり1つひとつ技術を研鑽し、良い製品を適切かつ合理的な価格で市場に出していこうという「住友精神」でやってきたものですから、「これは凄い世界になったなあ」という感じで、個人的にも反発があります。今でも、そういう風潮がもてはやされたら、「大変なことになるなあ」と思っています。

財部:
こういうメディアの世界にいて、やはり非常に危機感を持ったのは、とにかく日本の学者やエコノミストにはいい加減な人が多いということです。実際、これまで彼らがどれだけ「日本の製造業は終わりだ」と主張してきたかわかりません。かつてバブルの頃、彼らはもう「これからは首から上の時代だ」と話していましたし、ごく最近まで「日本は中国にコスト競争で敗れる」といっていました。

松本:
そうですね。

財部:
僕はそんな製造業を否定する風潮、それからライブドアや村上ファンドに象徴される、あのような現象に抗おうとして「サンデープロジェクト」でも、日本のものづくり特集や中国特集をやってきたんです。中国特集にしても、意図的に中国で製品を売って大活躍している日本企業ばかりを取り上げてきました。実はこの企画も、まさにその延長線上で始まっているわけですね。

松本:
そうですか。私は経済産業省の「ものづくりフォーラム」という会合に、メンバーとして名を連ねています。このフォーラムは、1月は休みですが、毎月1回、午前7時半から9時半までやっています。

財部:
朝が早いですね。

松本:
ええ。じつは住友グループの中核会社で、関西に「会長」「社長」という実態があるのは住友電工だけなんです。他社は東京に本社機能を移しているので、関西でものを作っているグループ会社の代表として、私がフォーラムのメンバーに入っていると思っています。

財部:
どんなフォーラムなんですか?

松本:
経済産業省としても、やはり「ものづくり日本」をもう1度見直そうとしていましてね、彼らが政策を作るための諮問委員会のようなものです。僕は既に2年に亘って関わっていますが、そうそうたるメンバーで、以前はキヤノンの御手洗会長、松下電器の中村会長などが参加していました。その頃のメンバーでいま残っているのは僕と新日鐵の三村社長、東レの榊原社長、三菱重工の佃社長ぐらいですが、フォーラムでは政策論的な事柄や派遣・請負などの諸問題について話し合うほか、1人ひとりが40分ぐらいの持ち時間で発表もするんです。

財部:
かなり長時間ですね。

photo

松本:
ええ。経済産業省から経済産業政策局長や製造産業局長もきて、フリートーキングでやるんですが、結構面白い話が出ます。ああ、日立製作所の庄山会長もいらっしゃいましたね。

財部:
ほお、凄いメンバーですね。

松本:
ずいぶんと面白い会ですよ。いま経済産業省も、ものづくりには非常に頭を痛めているんですけどもね――。

財部:
それは、どんな面についてですか?

松本:
人と技術、そしてマーケットなど、いろいろと複雑なことを彼らが整理しようとしていることは確かですね。やはり新製品や新技術の開発なしでは、日本はいずれ中国にキャッチアップされてしまう。そんな危機感もあって、結局「ものづくりに携わる組織は、研究開発の活性化を通じて、新しい製品を常に世に問うていく」べき、ということを皆が考えているんです。新しい技術を作っていくということしか、もう日本に生きる道は残されていない、ということですね。

財部:
そうですね。

松本:
それとまた、これも大事なことですが、日本のメーカーのトップは、中国をアンチテーゼ≠ニしてではなく、自分たちの活動における1つのテリトリーだというグローバルな観点でみていると思います。「中国だから」といって一線を引くことはなく、私どものグループでも約50社が中国に進出し、現地で3万人ぐらいを雇用していますよ。

財部:
それは凄いですねえ。

松本:
当社はかなり古くから中国に出ていましてね。私自身も「事業本部の1工場が、中国にある」という感覚で、いかに利益を上げ、その利益をどう還元し、どう技術開発をしていくべきか、という見方をしてきました。経済産業省としても、日本企業は、ダイナミックに動く中国を含めたアジアをどのように自身のオーガナイゼーションに取り込み、生産性を上げるべきか、という指針も一応出しています。やはりその意味で、かなり日本企業はグローバル化してきたのではないですかね。

財部:
してきましたね!