株式会社ローソン 新浪 剛史 氏

環境、社会の目の厳しさ

財部:
新浪さんは「24時間営業の見直し」などを表明しています。社会からの視線による危機感も感じられているようですね。コンビニビジネスは難しい状況になっているのでしょうか。

新浪:
3年から5年という期間でみると大変な問題が出るでしょう。

財部:
その問題とはどのようなものでしょうか。

新浪:
 一つは環境問題ですね。地球温暖化問題がクローズアップされています。しかしコンビニは大量にエネルギーを使います。雪が降り、誰もお客さまのいない北海道の店でも深夜に電灯をつけ続ける。そして商品を並べるためにトラックが一日に何度も乗りつけ、大量の商品を廃棄する。「全国一律のサービスを提供するため」と言っても、それはローソンの言い分なのです。 もう一点が社会環境に対する責任の問題です。若者や子どもが深夜のコンビニにたむろして、防犯の問題もでてきました。24時間営業のプラスのポイントは確かに多かったのですが、これだけコンビニが増えると、マイナスもあります。「何か受け入れられていないぞ」というのが普通の感覚だと思うのです。 そういう中で、すべてのお店を標準化するのがいいのか。24時間営業がいいのか。こうしたコンビニのあり方を検討しなければならない時期に思えるのです。

財部:
豊富な品揃えの背景にある大量の商品の廃棄は、コンビニのビジネスに必然だったとは思いますが、今後はどう考えるべきですかね。

新浪:
これまではお客さまがそれを求めていたという現実があったのですね。商品がまばらにならんでいると、お客さまは手を出さない。お客さまの視点からみると自然なことだったのです。一方でここ数年、環境問題への社会の関心が湧き上がってきました。コンビニのビジネスモデルが確定したのはバブルのころです。その時と違って、社会の評価軸が環境を重視するようになってきました。 「環境は大切ですから、お客さま、数個残った商品を買ってくださいよ」と簡単に説得できるものでもない。どうしたらいいか、ここは大変悩んでいるところです。

財部:
解決策はありますか。

新浪:
発注の制度を改善します。必要なものを必要なだけという形にしたい。そうして廃棄を極限まで減らす生産の仕組みを考えねばなりません。これは技術的なブレイクスルーが必要ですが、詳細は企業秘密です(笑)。 ローソンの取り組みを近く発表できると考えています。

経営者の苦しみとは何か

財部:
こうした問題意識は新浪さん個人のものですか。それとも組織として共有されているものなのでしょうか。

新浪:
組織のものではないですね。できないとも思うのです。会社は現場に近いほど日々の収益を考えなければならない。現場のつらさがあります。私はよく天守閣のたとえをするのです。日本の城の天守閣に登ると、立つ場所で見えるものが違います。また、上から見れば物事の様々な関係がみえますが、下の階にいれば遠くはなかなか見えない。ローソンの中にも私の視点に対して「なにいっているんだ」と思う人は多くいると思います。しかし上から、多方面を見ないと、5年10年の期間での大きなうねりを理解できません。先手を打つのは社長の仕事だと思っています。 変革はもうかっているときやらねばなりません。私は日本の経営を見てきて「勝っているときにやっていれば・・・」という失敗がずいぶんあった、と思っています。

財部:
新浪さんは1週間の時間の使い方で水曜日を休みとするそうですね。「考える時間を取る」という試みの中に経営者としての思いがあるように思うのです。新浪さんが経営者として悩みぬき、自らを脱皮する必要を感じられているのでしょうか。

新浪:
いろいろじっくり考えたいのです。仕事をすると、現場の中にどんどん埋没してしまう。それは仕方のない面もあります。さきほどのたとえに戻ると、まれに天守閣の上から見るのは大事。現場は人に任せ、組織経営に移っていかねば会社のためになりません。朝から晩まで1週間働いて、汗を流しているのは別に美徳ではありません。経営者として、私が求められているのは結果です。それには先見性が重要なわけです。水曜日に考え、フレッシュなアイデアを持って、新規事業の担当者などと土曜日に議論しています。ただ社長の職務は忙しくて、どうしても予定が入ってしまいます。完全にオフになるのは1カ月に1回ぐらいですね。

財部:
新浪さんの精神を支える、これはという書物はなにかありますか。

新浪:
本は好きですね。前は経営書などを読み漁ったのですが、今は物事の考えを整理するために、哲学書などを読むようになりました。あと、最近頻繁に読むのが戦記、それも太平洋戦争の戦史です。日本が戦争に負けたという事実、そして失敗は経営にいかせると考えているのです。旧日本軍の戦史を読むと、甘い判断をするトップの姿が出てきます。「あいつがかわいそうだから、やらせてやろう」。こうした指揮官の甘い判断で、兵士がたくさん死んだのです。経営者は判断をするときに、自分の背負うものの重さを考えるべきだと思うんです。自戒のために読みます。ただ、私は自分自身が日本人だから。そのような甘い判断をする思考がとても似ているんですよ。DNAともいえるものでしょうか。

財部:
でも、その日本人が明治維新という革命もやったのですよね。(笑)

新浪:
私にも両方のDNAがある。変革を成し遂げたDNAもあると考えているのです(笑)。

財部:
ありがとうございました。

(2005年7月15日 品川区大崎 株式会社ローソン本社にて/撮影 内田裕子)