株式会社ローソン 新浪 剛史 氏
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怖くて眠れない夜もある

株式会社ローソン
代表取締役社長兼CEO 新浪 剛史 氏

財部:
ローソンは04年2月の決算で創業以来最高の利益を出しました。にもかかわらず新浪さんは、「24時間営業」の見直しや、「ナチュラルローソン」や「STORE100」のような新型コンビニの本格的展開など、従来のローソンを否定するかのような新しいビジネスモデルを次々と打ち出していますね。みようによっては、新浪さんはコンビニの将来にとんでもない危機感を抱いているように見えますが、いかがですか。

新浪:
大変な危機感を持っています。夜も眠れないほどです。

財部:
本当ですか?眠れないほどですか。

新浪:
収益そのものが、いつ、なんの拍子に消えるかわからない。心配は尽きませんよ。怖いぐらいです。

財部:
業績は非常にいいですが。

新浪:
数字はいいけれど、実際は厳しいのです。コンビニ上位4社はたしかに増収増益で決算には勢いがあります。しかし、その一方で1店舗ごとの収益をみると、どこも向上していません。このままだと3年後は非常に怖いですね。

財部:
この先は収益が低迷していくのですか?

新浪:
同じパイを上位企業が食い合っている状況です。今、お客さまは30歳代までの男性が中心ですが、今後、高齢化の中でその層は薄くなっていくでしょう。 現在、コンビニ間の戦いは終わり、他業態との競争が起こりつつあります。例えば、スーパーが深夜営業に進出してきましたし、ドラックストアの使い勝手がよくなっている。100円ショップもまだ成長中です。

コンビニの「すごく便利」はもう「普通の便利」に変わってしまいました。 それなのに、コンビニはここ数年、大きなイノベーション(変革)をしていません。有利な点が消えていく怖さを感じます。コンビニはセブン・イレブンが31年前に始め、そのトップランナーを2位のローソン以下が追いかけていったという歴史です。でも、もうそれでは成り立たちません。自分たちで未来を切り開かねば、先行きは明らかに厳しいのです。店頭から「わくわく感」が消えてしまったというお客さまの声も聞こえてきました。

成功体験では変われない

財部:
総合スーパーが凋落していったプロセスとイメージが重なるお話です。ダイエー創業者の中内功さんは流通革命を起こしてスーパーマーケットのビジネスモデルを作りましたが、薄利多売で客を集め、バブル期に絶頂となりました。しかしその後、ユニクロや100円ショップなどの専門店が台頭してきて、顧客を奪われていってしまった。

新浪:
その通りです。一つの領域に販売ターゲットを絞り込んだ小売業、私たちはカテゴリーキラーと呼んでいますが、この攻勢が目立ちます。100円ショップ、小型スーパーなどがそうですね。カテゴリーキラーはたいてい優秀なアントレプレナー(企業家)が率いているので、動きが速いのです。コンビニは遅いですよ。巨艦が動かないような思いにとらわれる時もあります。

財部:
でもコンビニは小売業の中で唯一業績好調な業種ですよね。

新浪:
成功体験があるから変われないのですね。私は別の会社から来たので、なおさらそう見えます。小売業はいつも足元のことばかり考えがちです。その結果、未来に向けた夢を考えられなくなってしまった。