株式会社ローソン 新浪 剛史 氏

財部:
コンビニが勝ち続けてきたのは、なぜでしょうか。

新浪:
フランチャイズビジネスであることが、大きな要因であると思います。ローソンは現在約8100店舗ありますが、そのうち直営店は300店前後。残りの6000店はオーナーの皆さんと共同経営をしています。この人たちはアントレプレナーで、自分のおカネを投資して一生懸命頑張っています。だから利益が出ます。他の小売業の店長はサラリーマン、この差は大きいですね。しかもコンビニは他のフランチャイズビジネスより収入がいいですから、なおさら頑張るのです。 しかしその一方で、コンビニの経営は楽ではありません。24時間自分の店が開いているのは疲れるし、最近はアルバイトの若者が集まらない。その教育も大変です。そうなると、成功している優良なお店のオーナーほど「もうおカネ貯まったし、これ以上コンビニを続けていく必要はないな」と、フランチャイジー契約を更新せずに辞めていってしまう可能性が高いのです。 フランチャイズビジネスの面白さは、アントレプレナーの集団が「よし、やるぞ」と思った時に、すごいパワーが出るところなのですが、彼らにそっぽを向かれたら一気に崩壊しかねないのです。彼らのパワーをいかに持続させるか、それがローソン本部と社長である私の役割なのですが、このままだと、パワーが大きく減少する恐さがあるのです。

現状を打ち破る新戦略

財部:
オーナー経営者の意識はそんなに大きくぶれたりするのですか。

新浪:
本部の努力次第で大きく動きます。社長に就任してから3年、夢を語るよう努力をしました。商品を改善し、オペレーションのスキルもよくなったとは思います。ですがこの勢いが続くかわかりません。 日本の小売業の現場は、間違いなく店舗が過剰になっています。ローソンの隣にスーパーやカテゴリーキラーがいつ来るかもしれない。現場を回っているとそんな店舗の悲鳴が聞こえてくるようにも思えます。

財部:
ローソンが5月に打ち出した新戦略の背景にも、この危機感があったのでしょうか。「ナチュラルローソン」の本格展開と「STORE100」の開始を発表しましたが。

新浪:
解決策とはいえないまでも、現状を打開するひとつの答えになるとは思います。新しいお客さまを取り込める可能性があるのです。今までのコンビニは何事も標準化し、若い男性中心の店作りをしていた。それをどう是正するかが、構想の出発点でした。「ナチュラル」は女性のお客さまをどう引き込むか考えた結果です。「ナチュラル」の女性顧客は5割ですが、ローソン本体で女性の割合は27%にすぎません。将来は70%にもっていきたいですね。面白いことに女性向け商品を増やすと、男性のお客さんが増えるのです。男性が女性化し、ダイエットなどを気にしているのです。そこにマーケットがあったのです。

コンビニの自己否定なのか?

財部:
「STORE100」の狙いはどのようなものでしょうか。

新浪:
50歳代から60歳代のお客さまと、主婦の皆さんに来ていただきたい。生鮮食品で料理をする人を狙ったわけです。こういう方たちは1週間に1回スーパーでまとめ買いをして冷蔵庫に置いておく。しかし生鮮品は長く冷蔵庫に置いておくと鮮度が落ちる。もし、歩いて4、5分のところに「必要な生鮮食品をいつも売っている」ストアがあれば便利ですよね。 100円前後の販売価格で、望めばすぐに生鮮品が買える仕組みを作ったわけですが、どこのお店も同じというような標準規格の出店するのではなく、商圏のニーズに合わせて特色のある店作りを考えています。

財部:
意地悪な言い方をしますが、「ナチュラルローソン」や「STORE100」は従来のローソンを「自己否定」することになりはしませんか。既存店オーナーも戸惑うように思えます。

新浪:
確かに店の姿で考えると「自己否定」に見えます。しかし、私はコンビニの「進化」と考えています。ひとりひとりのオーナーの収益を上げることを狙ったプログラムなのです。今までは既存店収益を向上させるという考えでしたが、今後はオーナーが店の形を3タイプの中から選べるのです。オーナーのローソンの近くに新タイプの店ができたらどうなるんだ、という心配も寄せられています。でも私たちは単純に割り切っています。仮に本部が新型店を出店して成功した後で、そのオーナーに「店を引き継いで経営してください」というやり方もできます。「商圏を拡大しながらお店を守ってください」とお願いします。だって隣にライバルとなるカテゴリーキラーがくるよりいいでしょう。

新戦略の本音は「変革を促す」

財部:
ただ「ナチュラル」がうまくいくのでしょうか。2001年のスタート直後に店を見たのですが、はっきりいうと、提案ばかりが目立ち、中途半端に見えるところがありました。テストランが長すぎます。本当にニーズがあるのでしょうか。

新浪:
じつは「ごめんなさい」といってやめてしまおうかと悩んだ時期もありましたが、「何かがある」という結論に達しました。 振り返ってみると、これまで「ナチュラル」の店舗にはあまり経営資源を割いてきませんでした。しかし「ナチュラル」も収益を追求しなければならない。その結果、「ナチュラル」がローソン本体の店作りを真似るようになり、結果的に中途半端なものになってしまった。成功例のローソンに近い商品を並べれば収益は上がりますからね。これではいけないと考え、03年から独自商品を「ナチュラル」に投入しました。たとえば焼きたてパンや鮮度のいいサラダなど女性受けしそうな商品を入れると、普通のローソンより2割以上も売上高があがったのです。当初の狙いどおりのニーズがありそうなのです。

財部:
今後の「ナチュラル」の展開はどのような形を考えているのでしょうか。

新浪:
3大都市圏での展開を考えています。現在28の店を3年間で300から500店、売上高1000億円ぐらいにしたいですね。でも、出店数を重視しすぎると質が下がるので、私は利益率が向上すればいいと思っています。

財部:
それにしても300から500店という店舗数は、新浪さんの力のいれようからすると、意外に小さい気がしますね。狙いはもっとほかにあるのではないですか。

新浪:
本音を言ってしまいましょうか。要はこういう「とんがったこと」をやらないと、本体のローソンが変わらないのです。成功体験を持っている人たちが動かないのです。組織を分け、新事業がうまくいくのを見たら、グループ全体が変わる。そう考えているのです。1兆4000億円のグループ売上高を2兆円にできるかが、今、問われていますから、グループ内の競争や新しい挑戦ができる形にしたのです。そしした中で成功した商品を融通しあうことも考えているのです。

財部:
なるほど。「STORE100」も同じ考えなのですね。

新浪:
まったく同じです。グループ内で人を動かし、成功した人を別会社のポストにつける予定です。特に「STORE100」では生鮮食品の知識やノウハウが蓄積できます。これを別会社で行うことも期待しています。

財部:
成功しているのでなかなか変われないのです。勝っているうちは冒険ができないんですね。私は前向きな失敗ならいいと思っています。今はお客さまの行動が日ごとに変わる時代。仕方がない面もあります。消費者ビジネスはやってみなければ分からないので、頭で考えても何もならないと思っています。しかし、ちょこまかと小さな改善を繰り返していても仕方がないとも思っています。そして僕一人でやっても、なにも変革はできません。ミドルクラスの人が真剣に考え、実行しなければならないのです。ミドルが強い会社というのは伸びるのですよ。新戦略はミドルの変革も促せる可能性があるのです。