野村ホールディングス株式会社 グループCEO 永井 浩二 氏
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「聖域のない構造変革プロジェクトですべてを見直す」

野村ホールディングス株式会社
グループCEO 永井 浩二 氏

「ダイエットは体調が良い時にやるから成功する」

財部:
ご紹介者の凸版印刷の金子さんとはどういうご関係でしょうか。

永井:
金子社長は、中央大学法学部の先輩になります。金子社長が常務の時、私が法人の担当役員で、大変お世話になりました。金子社長と同じく浦和出身の日通の渡邉社長も中央大学法学部の先輩ですが、お互いにご存じ無いとのことで、三人で食事をする機会がありまして、そのあたりから更に親しくさせていただくようになりました。

財部:
そうですか。金子社長も非常にユニークな経営者ですね。話を聞いて革新的な経営に取り組まれていて感激しました。凸版印刷のような「紙」を扱ってきた会社はデジタル化で難しい所にいると思いますが、電子書籍も積極的に取り組まれておられますし、長年のライバルである大日本印刷と手を握ったというシャープディスプレイプロダクト(SDP社)への出資の話の大変興味深い話でした。ネスレのインスタントコーヒーに採用された紙の容器が非常に画期的でして、実際にコーヒーの詰め替えもやらせて頂きました。

永井:
そうでしたか。

財部:
今回、金子社長から次の経営者をご紹介いただく際に、永井社長のお名前がすぐに出てきたのですが、正直、話を受けてくれるのかなと思いました。僕は野村證券を辞めた時、いろいろな人から野村證券のことを書かないかと言われたのですが、暴露本を書くつもりはなかったので、改めて一から取材をし直して、野村證券の株式部の銘柄選定の仕組みについて書きました。90年代は証券不祥事があって、当時トップだった田淵さんらが辞任に追い込まれました。そういったとんでもない時代が終わって、健全化に向かっていると思っていたら、去年インサイダー問題がありました。またか、という気持ちもありましたが、インサイダーに関しては野村證券だけの問題ではなく、業界全体に対して言いたいことは山ほどあります。結果として渡部CEOが辞任に追い込まれ、永井社長がCEOも急遽兼務するという事になりました。これはどのような気持ちで受け止められたのでしょうか。

永井:
一連のインサイダー問題の対応について、渡部と二人でやってきたのですが、その渡部から「俺は辞める、頼むな」と言われましたので、そこで、嫌だと言う訳にもいかず、覚悟を決めた、という所が偽らざる本音です。 当社は、氏家(純一・元会長)がCEOの時に、持ち株会社に移行したのですが、その時から、ホールディングスと野村證券のトップはずっと兼務をしていましたが、4年前にリーマン・ブラザーズを承継して、海外業務がだいぶ広がったこともあり、2012年4月に渡部が、ホールディングスのCEOと野村證券の社長を分けて、私が野村證券の社長に就いたのです。その直後に例のインサイダーの問題が起こり、ホールディングスのCEOも兼務することになったのは、その矢先のことだったのです。

財部:
リーマンショック以降、野村證券はずいぶん厳しい状況に置かれてきたと思います。リーマン・ブラザーズを承継しましたがマーケットは低迷して収益が上がらず、その後は増資を繰り返していたので経営が大変なのだろうと見ていました。その中で思いきった合理化計画を出しました。本腰を入れて構造改革を進めようという時になって、安倍政権が誕生し、マーケットの状況が一変しました。これによって何か方針転換がありましたか。

永井:
多少マーケットが良くなったといっても、「選択と集中」の基本方針を変えるつもりはまったくありません。海外では、2012年9月に発表した10億ドルのコストカットを進めていますし、国内についても、野村證券を中心に構造変革プロジェクトを進めています。 たしかに、会社全体の業績という意味では前期は回復しましたが、ビジネスによって、地域によって、業績にはバラツキがあります。今期の第1四半期は国内リテールがかなり好調でした。海外部門は、プライベート・エクイティ事業で一時的に黒字になった時期もありましたが、基本的には厳しいですね。ですから、国内が調子が良いからといって、何もしなくてよいということにはなりません。

財部:
国内、国外、手を抜かずにやるということですね。

永井:
はい。マーケットが良くなって、決算も良くなると、もう構造改革なんてしなくても良いだろうという声も当然出てきます。私が役員に対してよく言っているのは、「ダイエットは体調が良い時にやるから成功するのであって、体調が悪い時にやったら、大変なことになるだろう」と。構造改革は、これは進めていきます。

財部:
僕にとって印象的なことがありましてね、小泉政権の時に日本はさんざん不良債権処理をやりました。カルロス・ゴーンがやって来て、はじめて日本企業は人員の合理化に手を染めました。2002年、2003年頃はかなり緊張感がありましたが、2006年、2007年と景気が良くなっていくと、あれほど危機感を持って構造改革をやると言っていたのに、社会全体として緊張感が緩んでくるわけです。この国はそういう恐ろしいところがあると思います。

永井:
そうですね。

財部:
永井社長の「それでもやるんだ」という気持ちはお話を伺っていても強く感じるわけですが、国内海外含めて、リーダーが相当強い気持ちを持っていないと、改革を推し進めるのはなかなか大変だろうなと思います。

永井:
正直言いまして、いろいろ文句は出てきます。特に、業績が好調な国内の事業部門からは出ます。「俺はこんなに頑張っているのに、なぜ経費を削減するのだ」と。

財部:
国内事業の構造変革プロジェクトはどのようなものですか。

永井:
野村證券の業務運営全般について、それを根底から見直すプロジェクトです。 この会社にはまだ無駄なところがたくさんあるのです。それはコストの問題だけではなく、時間の使い方、業務の組み立て方など含めて、昔のスタイルが残っています。それらをすべて変えていく必要があると考えています。 もっと問題だと思っているのは、自分の頭で考えなくなっている社員がいるということです。前例を踏襲していればそれは楽です。「あの人に言われたから」、「前もこうだったから」と、言い訳もできます。これだけ世の中が変わって、お客様も変わってきているのですから、前例踏襲で良いはずがないんです。ですから自分達がやっていることは本当にこれで良いのかもう一度考え直してくれと言っています。私は野村證券の社長も兼務していますが、構造変革プロジェクトは、2人の副社長、尾崎と沓掛に任せてあり、聖域なくすべて見直してくれと言っています。