株式会社アドバネクス 代表取締役社長 加藤 雄一 氏
「明るく、生き生き」こそが人間のパフォーマンスを最大に発揮させる
…もっと読む
経営者の素顔へ
photo

「ポジティブ」の意味を正確に理解している人は少ない

株式会社アドバネクス
代表取締役社長 加藤 雄一 氏

財部:
最初にご紹介いただいた方とのご関係を伺っているのですけれど、岡本硝子の岡本社長とはどういうお付き合いですか。

加藤:
岡本さんとは関東ニュービジネス協議会で知り合いました。 私が企業革新委員会の委員長であり同時に同協議会の副会長だったのですが、私の後任の委員長を岡本さんにお願いしました。 今はまた次の人にバトンタッチしています。 以前はカルビーの松尾会長が担当されていたこともありました。 それぞれ異業種ですが、ニュービジネス協議会の仲間としてお互いの工場を訪問したり、勉強会のようなこともやっています。

財部:
それは珍しいですね。どういう意図で始まったのですか。

加藤:
これからは企業間の連携の時代だなと思っています。 当社は飛行機や自動車に使われるタングレスという製品を持っています。当社の世界シェアは3位で5%程度でした。 これに変わる商品を開発したところ、世界シェアの1位と2位の会社が、当社のライセンシーになったのです。ライセンシーには作り方を全部公開しました。そしてライセンシーが改善する点があれば、それは当社に提供して貰い、当社から他のライセンシーに共有することがライセンス契約の特長です。それによって、互いに競合関係ではありながら、より良い製品、よりよい製造方法を共有することになり、結果としてお互いのシェアを喰い合うのではなく、市場を拡大するような関係になりました。このような形の企業間の連携の仕方に興味がありまして、今後も広く可能性を模索していきたいと思っています。

財部:
事前に拝見した著書や資料にもありましたが、社長ご自身は一貫してポジティブシンキング。社員にもモチベーションをしっかり与えていくということを重視されていますよね。

加藤:
はい、とても大切なことだと思っています。

財部:
頂いたアンケートの中にも、「ロッキーのテーマ」を聞いて気持ちを高めていくと書いてあります。ポジティブ思考であることをここまで強調する経営者はなかなかおられないと思うのですが、それはどうしてなのでしょう。

加藤:
もともと私はそれほどポジティブを正確に理解出来ていませんでしたが、「ザ・シークレット」という本を読んで、感じるところがありました。

財部:
自己実現を可能にするための指南書ですね。

加藤:
人間、夢を実現するためには前向きに考えて行動することが大切です。でも「負けないぞ」と思うことは実はポジティブではない、と学びました。

財部:
どういうことですか。

加藤:
「負けないぞ」という思考は「負ける」事にフォーカスしています。「負けない」と考えることで、頭の中では「負け」を意識しています。

財部:
なるほど。

加藤:
そのような考えから当社では「不良品をなくそう」と考えるのをやめました。「不良」に注目するのではなく、「良品を作り続ける」ということに重点を置いたのです。ですから当社の工場では、不良率推移など、他社でよく見かけるグラフや表は見当たりません。その替わりに、「良品率の推移」や「良品を作り続ける人の習慣」というポスターが掲示されています。

財部:
ポジティブなイメージだけを持つようにするということですね。

加藤:
はい。目標や達成したい状況をつねに念頭に置くようにしています。 ところで、 財部さんはゴルフをされますか?

財部:
最近はやってないんですよ。

加藤:
ご経験があるかと思いますが、ティーグラウンドに立って、目の前に池があると「落とすまい」と思います。でも、吸い込まれるようにボールは池に落ちてしまう。

財部:
得意技です(笑)。

加藤:
「落とさないぞ」と念じることは、「落とすこと」を中心に考えているのだと思います。それで「不良を出さない」と考えるのではなく「良品」に注目した考え方や取り組みに変えたのです。

財部:
僕は製造業を山ほど取材をしてきましたが、それは初めて聞きましたね。どこのメーカーでも不良をいかに無くすかというところをフォーカスしています。

加藤:
社内のあちこちでその話をした時、最初は皆、不思議そうな顔をしていました。今では海外拠点含めて全社で取り組んでいます。残念ながら不良が発生してしまうこともあります。それはもちろん、直さなければいけないのですが、やはり取り組みの中心は前向きな考え方であるべきだと思います。

財部:
ええ。

加藤:
多くの会社の営業会議では予算を達成できなかった営業マンは萎縮しながら「申し訳ございません」と静かにしていることが多いのではないでしょうか? 当社の場合は仮に売り上げ目標が達成できなかった営業マンも「やったぜ」と大騒ぎしながら拍手をして会議が終わります。何に対して「やったぜ」なのかというと、先週は、売り上げ目標は達成できなかったが、例えば何年も通ったお客様が始めて見積もり依頼をして下さった、とか、ついに口座開設をして下さったなど、良かった点に注目して「やったぜ」とやるのです。そうすると会議に参加していない社員も、聞こえてくる歓声を聞いて、「何か良い事が進んでいるみたいだね」と。じつは売り上げ目標は達成できてないのですけれどもね(笑)。

財部:
そうすると全体の成績はあがっていくものですか。

加藤:
残念ながら、必ずしもそうではありません。でもお客さんも元気で自信のある営業マンからは安心してモノを買って下さると思います。何かの理由で元気のない営業マンから「助けてください」という感じで勧められても買いたくならないはずです。元気で自信満々の営業マンを作るためにも、小さいことでも良い点を皆で探して褒めあって、前向きに取り組むようにしています。

財部:
なるほど

加藤:
尻叩き型の経営をしていると考え方も硬直化するように感じます。そうなると良いアイディアなど出ません。リラックスして生き生き楽しく仕事をしている時にこそアイディアは出るのです。失敗しても怒られない。沢山失敗するのは沢山挑戦している証拠、と皆が考える会社にしたいと思います。最近は取締役会などで、「こうやったら良いのではないか」と言うと、すでに「やってます」という返事が返されることが頻繁になりました。 みんなが主体的に、「良いかもしれない」という事にどんどん取り組んでくれるようになってきた、と心強く感じます。

財部:
それは素晴らしいですね。