株式会社LIXIL 代表取締役社長兼CEO 藤森 義明 氏

財部:
100人はすごいですね。

藤森:
そういう文化を作ると、私の部下も、その部下も、自分の下のレイヤー、さらにその次のレイヤーの中で、どこに優秀な人材がいるかを考えるようになります。そのレイヤー100人の中でトップクラスは誰なのか、誰にやらせるのか適任か、ぱっと出てくる。そういう仕組みを作っています。

財部:
4月からLIXILをテクノロジービジネスごとに四つに分けるという、従来とは全く違う事業形態にするそうですが、そこでは海外も国内も一緒にすると。記事の中で藤森さんは「これで買収戦略もやりやすくなる」とコメントしていました。これはGE時代にでき上がったビジネスモデルのイメージということですか。

藤森:
そうです。つまり優秀なビジネスリーダーに権限を委譲するということです。ヘッドクォーターが頭でっかちになると結論が遅くなるし、現場から離れているので、一番良い結論が出せない。現場のビジネスを知っている四人のリーダーに権限をどんどん持たせて、彼らがこれだという会社を買収していくのです。

財部:
とにかく先に先に手を打っていく。

藤森:
人事もそうです。本社が人事に関わると6ヶ月程度かかる。しかしグローバルで人材を獲得するためにはスピードが重要です。業界内でトップクラスの人材が外にでたら、すかさず採用しなければなりませんが、彼らに人を雇う権限を与えておけば、すぐに動くことができます。

財部:
権限委譲したら、藤森さんは何をやるのですか。

藤森:
買収した会社をどうやってガバナンスするかを考えていきます。まずは買収した会社に横串を刺していく。例えば、グローバルベースで見て、うちのトップ100人は何処にいるのか。そういう意味でも人事は統一しなければならないですし、コンプライアンスシステムも、会計システムも統一していく。その横串さえきちんとしていれば、会社をコントロールしていけます。

財部:
その場合、藤森さんの選択眼が全ての勝敗を決めていくことになりますよね。

藤森:
そうです。これは完全に私の責任です。ウェルチの時のGEは11のビジネスがありましたが、11人のリーダーを誰にするかで結果が全然違っていました。その人に戦略的な権限を与え、会社をどうやってマネージするのかという判断を与えるので、やはり人次第になります。だからGEは過去150年間、どのCEOをとってみても「会社を作るのは人だ」と言います。人材育成をすること、どういう人を選ぶかということ、これが一番会社として大事なことだと皆言っています。でもCEOによってヒット率が違います。例えばウェルチは打率八割だったと思いますが、八割もヒットを打てる経営者はほとんどいない。

財部:
八割は十割みたいな話ですよね。

藤森:
そうですね、人間二割程度は間違えるでしょう。それはすぐ直せば良いレベルです。でも勝率が六割ではGEでは厳しい、普通の経営者は五割が良いところだと思います。半分当たればなんとかみんなが納得してくれます。自分としては八割を目指しています。そうでなければ厳しいと思います。

財部:
藤森さんはウェルチの空振り二割も見ているのですね。

藤森:
知っています。

財部:
期待に応えなかった二割の共通項というのはありますか?

藤森:
あります。ウェルチの場合、囲いを作る人物は絶対にダメだと言います。それは自分をオープンにしない人、自分のベストプラクティスを外に出さない人です。情報というのは、どれだけ持っているかが勝負ではなく、その情報からどんな結論を出して、どういう行動を起こすかが大事なのです。ですから情報というのは100%全員がシェアすべきで、そこからが本当の勝負なのです。

財部:
なるほど。

藤森:
10人がそれぞれ違った情報で動き出すと当然10の違った結果が出てきますが、情報がシェアされていないのでミスやムダが多くなります。では100%の情報を与えられた10人が行動と結論を起こす。実はそれも同じように10の違った行動と結論が出てくるのです。つまり情報というのは、あってもなくても、結果としてアクションは10違ってくる。それだったら囲い込まず全ての情報をシェアして、その上でどれだけの結論を導けるか、それが本当のリーダーシップの価値だと思います。情報を囲ったり、情報量を競うというのはリーダーシップ以前の問題、そういう人間はむしろいないほうがよいのです。

財部:
利己的な人間にはリーダーは務まらないということですね。

藤森:
そうです。あとは勘に頼らなくてはならないところが結構あるので、うまく勘を働かすことができる人。会社を去って行く二割はやはり勘をはずす人でしょうね。

7:3から5:5へ

財部:
4月以降の、4つのビジネスのトップは、藤森さんの肝入りということになるのですね。

藤森:
そうです。私は三人のトップを決めます。打率八割で最高の経営者と言われる領域で、我々は凡人なので、七割、六割、ひょっとしたら五割かもしれない。正直言ってやってみなければわからないところがあります。でもその時に、ちゃんとアクションを起こせるか。つまりダメだと思ったらすぐに替えられるかどうか。LIXILは日本の会社ですが、ダメだったら本当に辞めさせるよ、とトップたちには言ってあります。ですから今回抜擢されるメンバーは、ダメなときには降ろされる、仕方のないことだ、とみんな思っているはずです。

財部:
ちなみに国籍はどうなるのですか。

藤森:
二つあって、ビジネスをやるビジネスリーダー、それからファンクショナルリーダーというのがありますが、両方とも日本人と日本人以外が半分。私の頭が半分半分なので、ちょうど半分半分で行こうかと。

財部:
半分半分なのですか。

藤森:
今は完全に半分半分です。前までは七がアメリカ的思考、三が日本的思考だったのですが、今かなり日本が来ています。

財部:
エモーショナルなところがついていけない、ということはあるでしょうからね。

藤森:
そうですね。エモーショナルなところは大事です。

財部:
でも僕から見ると、藤森さんご自身も、日本で生まれて、日本の大学に行って、日本の商社に入った。それからGEの価値を理解し、身につけていったわけですね。日本人だってこういうGEの思考を理解して、世界で戦えるのだという成功事例として、社内で理解してほしいですね。

藤森:
そう思います。私が特殊だと思われてはダメで、誰でもできるという気持ちを持たせなくてはなりません。そのために我々はものすごい投資をしてリーダーシップトレーニングをやっていますが、必ず私は参加します。そして自分の理念を語り共感を得ようとします。GEでもリーダーシップトレーニングはウェルチが積極的に参加していました。トップが直接人材を育成して、時間と金をかけるのです。そうすることで彼らとの距離が近くなり、「このリーダーシップ教育を受ければ、自分も近づくことができるのだ」と感じてもらえます。私自身もリーダーシップ教育を受ける度、そしてウェルチやイメルトに近づくほど、彼らも二割、間違えるのだな、自分だったらこうするな、という気持ちが芽生えてきて、「俺にもできる」と思えてくるのです。

財部:
トップ自らがリーダーシップ研修をやるというのはやはりすごいですね。日本の会社でそれをやれるCEOは限られていますね。

藤森:
そのためのリーダーシップトレーニングを、次世代、次次世代、次次次世代、若者、というふうに、レイヤーに分けてやっているのです。そうすると何も怖くなくなってくる。

財部:
リーダーシップトレーニングの中で教えるものは、経営者の考え方ですか。