株式会社セブン-イレブン・ジャパン 代表取締役社長 最高執行責任者(COO)  井阪 隆一 氏

財部:
先ほどのアンケートの話ですが、私はもう10年来、色紙を頼まれた時に「不易流行」と書いているのです。これは、皆さんにお伝えする言葉であると同時に、私自身が生きていく上でのぎりぎりの理念でもあります。真実を伝えていくことはもちろん大切ですが、正しいことを言ったらすべてが済むというわけでもありません。井阪社長は「小売店の宿命」とおっしゃいましたが、私たちの商売にもそういう宿命があり、それを無視していては、良いことを言っても受け入れてもらえません。その意味で、流行りすたりをテーマに取り上げながらも、そこで本質を訴えるということが、私自身の最大の課題でもあるのです

井阪:
財部さんと座右の銘が一緒とは嬉しいですね

自己実現こそが最大のモチベーション

財部:
私も座右の銘を今後も変えずに、これでいこうという気になりました。このアンケートは本当に軽い感じのものではありますが、それだけ皆さんの個性が出るところで、私はとても楽しみにしているのです。映画についても、いろいろなことを言う方がいらっしゃいますが、ハリソン・フォードと『インディ・ジョーンズ』シリーズと書かれたのは初めてなのですよ。

井阪:
そうですか。映画とは、私にとっては娯楽かつスペクタクルで、日常では体験できないようなドキドキ感や感動を味わせてもらえるものです。その意味で『インディ・ジョーンズ』シリーズは、見ていてワクワク、ドキドキ、ハラハラさせてくれる非常に面白い冒険アクション物語。加えて、ハリソン・フォードは『今そこにある危機』や『逃亡者』のようにシリアスな役も上手で、私は映画で選ぶというよりも、ハリソン・フォードが主演をしている映画は取りあえず見に行くという選び方をしています。娯楽性という意味で、彼は非常に素晴らしい役者だと思いますね。

財部:
映画に何を求めるかというのは、かなり個性が出るところで、娯楽性という言葉で語る人もいれば、人生だと言う人もいますよね。昔は「映画は人生の哲学だ」という話が多かったせいもあり、私は10代、20代の頃、映画を非常にストイックなものと捉えていました。以前、ある出版社で「映画とは何か」という話になった時、編集者たちが皆「娯楽でしょう」と話していたので、まったく考え方が違うと感じたのですが、娯楽か、と思いながら映画を見始めたら、「なるほど映画は娯楽だな」と次第に思うようになりました(笑)。

井阪:
そうですか(笑)。

財部:
それから、自分の見る映画が非常に変わっていきました。やはり映画は、最も身近でさりげない娯楽、というのが私の今の結論です。それにしても「苦手なもの」が「人前でしゃべること」というのは、こうやってお話していて本当に意外ですね。

井阪:
社長になってから、いろいろな場所でスピーチを頼まれる機会が多くなったのですが、非常に苦手です。TPOに合わせてしゃべれないのです。ご質問に対してお答えすることはできますし、自分の考えを話すことはできるのですが、パーティーでの乾杯の発声のように、その場に合わせて話の中身を変えたりするのが下手なのです。

財部:
そこも共通しているのですが、私は話すことが商売で、話すのが得意だと思われています。もっとも、私は真剣なトークは得意と言ってもいいぐらい好きなのです。たとえばこの「経営者の輪」のインタビューはとても好きですし、「報道ステーション」の特集レポートなど本気モードでやれるのは好きなのですが、スピーチなんかは苦手ですね。井阪さんは本当にきちんとお話しようと考えていらっしゃるから、苦手だと思われるのではないかと感じました。

井阪:
ありがとうございます。

財部:
もう1つ、この「恥ずかしい失敗は、すぐ忘れてしまいますので」というお答えは、とても素晴らしいですね。

井阪:
しょっちゅう失敗をするんです。社内でいろいろな会議がありますが、実は私の横には必ず鈴木会長がいて、私が発言するとすぐ横で「それはちょっと違うな」と言われます。ウィークリーとかバイウィークリー(隔週)でそういう経験をしていますから、失敗はすぐ忘れるようにしています。(笑)。

財部:
実は、そこは私も聞きたかったのですが (笑)、レジェンド(伝説的な人物)が隣にいらっしゃるわけですか(笑)

井阪:
そうなんです。自分も「こうすべきだ」と意見を出したすぐあとに「それはちょっと違うな」と言われると、もう穴があったら入りたいような気持ちになります。

財部:
そうですか。順番が前後しますが、「趣味、今ハマっていること」は「ダッチオーブンで料理を作って、美味しいワインを飲むこと」とお答えですね。

井阪:
私は商品開発を担当していたので、ずっと料理はやっていたのですが、ダッチオーブンと付き合い始めてからはまだ日が浅いのです。東京・三越前に「ストーブ」というダッチオーブン料理の専門店がありますが、そこはダッチオーブンの凄さを肌で感じられるお店です。ダッチオーブンは、素材の良さを引き出せるシンプルな調理器具で、これを使えばパンやピザを焼くことも、煮込み料理も、ローストチキンのようなダイナミックな料理も作れます。アクアパッツァを作ってもおいしいですし、これを使えば幅広い料理ができるのです。これを使って一品料理を作ると、家族が喜んでくれます。

財部:
基本的には家族のためなのですか? それとも誰かを呼ぶとか。

井阪:
それもありますが、お客さんを呼ぶと、家を片付けたりしなくてはらないので(笑)、作業がかなり多くなりますから。

財部:
理由は「美味しくワインを飲みたいから」ということですが、ワインがお好きなのですね。

井阪:
私は若い頃、酒類を担当し、買い付けや商品開発を手がけたこともあります。

財部:
では、この趣味ほとんど本業発なのですね。今日はどうもありがとうございました。

(2013年1月24日 東京都千代田区 セブンイレブン・ジャパン本社にて/撮影 内田裕子)