株式会社小松製作所 坂根 正弘 氏
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ドルのポーションだけで「円高」「円安」を語る時代は終わった

株式会社小松製作所
代表取締役会長 坂根 正弘 氏

財部:
最初に、今回ご紹介いただいたJFEホールディングの數土社長とのご関係をお教えいただけますか?

坂根:
まずはビジネスの関係ですね。当社には建設機械部門と産業機械部門がありますが、産業機械で使う鋼材を、おもにJFEさんから調達しているんです。

財部:
そうなんですか。

坂根:
(建設機械や産業機械を製作するにあたり)まずは鋼材を「板取り」するんですが、つまり(一枚の鋼材から複数の部材を無駄なく切り出せるよう、カット位置を計算したうえで)厚板を切断するんです。こうした厚板の切断作業は、社内でやるのが一般的ですが、コマツではそれを早い時期から専門の協力企業に依頼しています。現在コマツが全世界で使用する厚板の切断は、その協力企業が一手に引き受けており、高い生産効率を達成しています。

財部:
それはどうしてですか?

坂根:
私たちは厚板をいかに100%近く使うかという勝負をしているわけです。厚板から部材を切り出すと端材が出るんですが、普通はそれをほとんど捨ててしまう。ところが専門の会社に依頼すると、たとえ小さな鋼材でも、それを無駄なく使えるようなカット位置を見つけてくれるので、歩留まり(原材料の分量に対して、完成品がどの程度得られたかを示す比率)がどんどん上がるんです。ですから現在のように、鋼材価格が高くなってくるとコスト削減メリットが出てくるわけです。JFEさんとのつながりは、そういう鋼材調達の面が1つあります。

財部:
もう1つは、どんなつながりですか?

坂根:
昨年の夏に軽井沢で行われた、社会経済生産性本部のセミナーで、私が講演を行ったんですが、その講演会で數土さんが、真正面の席に座られており(笑)、講演が始まる前に「坂根さん、今日は期待していますから」と話してくれましてね。その講演のあと、數土さんは「坂根さんの話は面白いから」と言って盛んに宣伝していただいたようで、いろいろな団体の人が「數土さんに紹介された」と言って、私を訪ねて来られるようになりました。

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財部:
そうでしたか(笑)。

坂根:
それから2年前頃だったと思います。數土さんが当社の石川県の工場を訪ねて来られたのですが、そこでわれわれの生産現場を高く評価されるわけです。私は「そんなことはないですよ。數土さん、何をそんなに――」と話したんですが、彼は「現場を見れば、その会社の実力がわかる」と言われましてね。過大評価なんですよ(笑)。

財部:
ですが、日経の「PRISM」(日本経済新聞社と日経リサーチが共同開発した多角的企業評価システム)でも、コマツさんは2年連続で「日本で一番優れた会社」だと評価されていますよね。

坂根:
たしかに業績は良くなっていますが、「日本で一番」というのはどうも――。自分自身、これまでコーポレートガバナンスを真面目に追求してきたという部分については胸を張れると思っていますが、そこは通常評価しにくいところですよね。

財部:
その意味で、坂根会長が「ここはナンバーワンだ」と胸を張れる、確たるものは何ですか?

坂根:
会長が取締役会の議長の役割に徹し、また社外役員と一緒にCEO以下の業績を評価するという体制を作り上げてきたことでしょうか。そのためにはアメリカ式の委員会制度が優れているのかもしれませんが、委員会制度は親会社だけを見ていくには良いんですが、日本企業は子会社の数が多い。従って、さまざまな面から検討した結果、親会社だけでなく子会社もしっかり見ていくには、やはり監査室をしっかり作っていく必要があると思うんです。それに加え、CEO以下の業績をきちんと評価するためには、一定割合で社外役員も必要です。さらに親会社内部の会長が、社外役員側について公正を期す必要もあります。

財部:
なるほど。

坂根:
具体的には「報酬委員会」という名前でスタートした組織なのですが、これは社外役員と報酬委員会専門の方に加え、社内からは会長だけが出てCEO以下を評価する場です。そういうコーポレートガバナンスのあり方とか、取締役会でほんとうに活発に議論が行われるためにはどうしたらいいか、ということを、コマツはいろいろ試行錯誤してきました。たとえばコマツでは、大事な問題になればなるほど、まずは早目に「報告」を出しておいて、それから「討議」の段階に移り、最後に「決議」しているのです。通常よくあるパターンでは、討議の段階は内部の少数の人で話をまとめ、決議のときだけ取締役会に出すわけですが、これでは社外役員はなかなか意見を出しにくいと思います。コマツではそういうことはありません。

財部:
ほお。

坂根:
こういったガバナンスのあり方について苦労を重ねてきたことに対しては、かなり胸を張っています。

財部:
坂根会長ご自身が社長になられてから、ずいぶん力を入れてこられたんですよね。

坂根:
コーポレートガバナンスについては、私が社長になる以前から下地ができていました。ですが、私が社長になった当初は、会社自体が業績面でギリギリまで追い詰められた状況だったんです。会社が営業赤字に落ち込み、もはや待ったなし。社長が代わったときにやるのが一番楽で速いから、すぐに処理したということですね。

財部:
コマツさんの場合、私がお邪魔させていただいたのは中国、インドですが、そこでは現地法人の社長さんにも何度もお目にかからせていただいたし、子会社や関連会社、サプライヤーの方にもお会いしています。その印象で言いますと、コマツさんの場合、現地法人と本社との関係を見ても、規律がしっかり守られている中にも、ある程度の自由度をもって会社が動いているような感じがします。実際のところ、日本の大企業でもじつは締め付けがかなり激しいところが多く、「何をやっているんだろう」と首をかしげる部分があります。そういうことは海外に行くと、ほんとうによく見えるんです。日本国内だけを見ている人は「なぜコマツが日経PRISM1位なのか?」と言うでしょうが、海外の現場を見ていると「コマツさんの現場は非常によくできている」、というのが僕の実感ですね。

坂根:
これだけ企業のグローバル展開が進むと、「社外の目」が入ることは必要だと思います。会社は世界に開いているのに、ガバナンスについては社外役員を一切入れない。外の人に社内の事情はわからない、としてしまうと、これは社内のあらゆる部分に響いてくるんですね。結果を出しているうちはまだいいのですが。

財部:
そうですね。

坂根:
私は何をやるにしても、社外の人の目を常に意識しながら意思決定しています。たとえば「取締役会に議題を出すとき、社外役員の方からはどのような反応があるだろうか」とか。それからコマツでは、外国人によるアドバイザリーボードを年2回、既に12年も続けています。そのミーティングでわれわれがやっていることを全部正直に話しているんですが、「こんな馬鹿なことを言ったら笑われる」とか「そこがおかしい」と言われるかもしれないということを、私自身よく理解しています。いま社内の取締役は1人を除いて海外駐在を経験していますが、皆が「こんなことを言ったら、第三者から『何だ』といわれそうだ」ということを常に考えている。そういう中で「コマツウェイ」という、皆が共有できるような価値観を持とうとしているんです。

ミスを起こした人よりも、ミスを隠した人を厳しく叱る

財部:
今日お伺いしたいことはたくさんあるんですが、あえて僕は、坂根さんに「冷凍ギョーザ事件」の話をお聞きしたいですね。

坂根:
いわゆる「日本の食」の問題ですね。

財部:
ええ。僕は、コマツさんのグローバル化は日本でも群を抜いていて、世界事情を最も語れる日本企業のトップは、坂根さん以外にいないと思っています。そこで坂根さんからみたときに、中国の天洋食品とJTフーズと生協という1本のサプライチェーンで、おそらく事件性が非常に高いと思われる農薬混入問題はどう映ったんでしょうか。日本中で、中国の食材は全部危ないと思われて、ひいては「ギョーザが駄目だ」ということで一時中華街にも閑古鳥が鳴く、という状況がありました。こういう現象は、世界を相手にして、世界で収益を上げているコマツさんからは、どのように見えるのでしょうか。

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坂根:
ギョーザに限らず、最近、食品の偽装事件が後を絶ちませんが、「世の中の信頼」という問題がその前にありますよね。その意味で、私の社長時代、「コマツの行動基準」の改定を行いました。第6版になるんですが、1つだけ付け加えたことがあります。それは、ミスや不正を隠した人を徹底的に処罰する、ということです。会社にも個人にもミスは必ずある。不正についても、過去は問題とならなかったことでも、時代が変わるに連れ許されなくなったことも数多くあります。だからミスや不正を起こした人の責任はもちろん問うんですが、それ以上に隠した人は許さないよ、ということなんです。

財部:
はい。

坂根:
そうなると、ミスや不正が起こった場合、それを直ちに(コンプライアンス担当部門および関係部門を通じて)社長にまで上げなければ怒られる、という社内の体質作りが重要になります。私は、社内であまり派手に怒ったことはないのですが、「バッドニュース」がいかに早く上がってくるかという点で、機会あるごとに、過ちを犯した人を叱っているんですよ。

財部:
そういう体質作りは、具体的にどうやられているんですか。