新日本石油株式会社 西尾 進路 氏

経営スローガンは「Your choice of energy」

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財部:
そうした中、西尾さんは社長就任直後のインタビューの会見で、「総合エネルギー企業」への転換、すなわち「ガスや電気から新エネルギーまで、全部やっていくんだ」と言っていました。そこに至るまでの流れと、それがいま何合目ぐらいにまで来ているのかを教えて下さい。

西尾:
「総合エネルギー企業」とは基本的に、前社長の渡(現在は会長)から引き継いだのですが、いま日本のエネルギーに占める石油の割合がだんだんと落ちてきているのですね。現在では一次エネルギー(原油、石炭、天然ガス、原子力、水力など、自然界に存在する物質をそのまま利用して得られるエネルギー)の中で、石油の割合は50%程度なのです。

財部:
ピーク時はどれくらいだったのですか?

西尾:
オイルショック以前は、80%近くありました。日本人は大変に優秀ですから「省エネ」、次に「環境」と、いろいろなことに取り組み、現在のような状況になりました。いまの見通しでは、2030年にはこれが40%にまで下がります。50%から40%まで――つまり、現在消費されている一次エネルギーの10%近くが、他のエネルギーに代わっていくわけです。

財部:
そんなにですか。

西尾:
ご存知のように、ガソリン車はハイブリッド車や小型車の普及により、将来的にガソリンをあまり使わない車になります。一方、住宅の高気密・高断熱化が進み、家庭ではあまり灯油を使わなくなってきています。また、軽油も物流の合理化でトラックをできるだけ効率的に動かすことで消費量が減っていくわけです。

財部:
それは危機感を感じますね。

西尾:
はい。しかも、かつて発電に使われていたエネルギーの約4割は石油でしたが、現在では1割以下です。さらにC重油という一番重い油は、電力会社さんがほとんど使わなくなる方向にあります。そうなると、私どもが石油だけを追いかけていると、縮んでいく需要に引きずられ、規模の縮小を招いてしまいます。そこで私どもも、石油から変わっていくお客様には「天然ガスはいかがですか」とか「電気はいかがですか」、場合によっては「燃料電池はいかがでしょうか」、という提案をしていかなければならない、と考えたわけです。

財部:
もう石油だけの会社ではだめだと。

西尾:
そう考えると、私どもの製油所には発電できる土地がある。しかもその土地代はタダだし、発電用の燃料はいくらでもある。だから、コストも安く電気を起こせます。また、マレーシアとインドネシアで天然ガス事業も展開中です。マレーシアは、石油を掘りに行ったら天然ガスが出たのですが、ペトロナスという国営石油会社と一緒に事業を始め、すでに相当の収益をあげています。そうやって、様々な種類のエネルギーを揃え、「Your choice of energy」というグループ理念を掲げました。これは「あなたが選んだエネルギーを、私たちは供給いたします」という意味です。「石油だけでなく、総合的なエネルギーのソリューションを提供しましょう」ということをやらないと、今後も成長していくために十分ではない、と考えています。

財部:
でも新日石さんとして「この部分に非常に期待している」とか、「この分野を大きくしなければいけない」という順位付けがあろうかと思うのですが、その辺はどうですか?

西尾:
私どもがコア事業として位置づけているのは、やはり石油です。石油消費は減少しているとはいえ、2030年でも一次エネルギーの40%を占めるのです。まずはコア事業として、石油ビジネスの上流から下流までを網羅する。これが、私どものもう一つのテーマである「一貫操業体制」です。

財部:
川上から川下までやっていこうということですね。

西尾:
そうです。石油の上流から下流までを手がけることは、私どもにとって一つの大きな柱です。今回の決算でもはっきり出てきていますが、いま上流部門は非常に好調です。WTI(米国産「ウエスト・テキサス・インターミディエート」。代表的な原油価格指標の一つ)で1バレル=70ドル台になっていますので。

財部:
そうでしょうね。

西尾:
ところが、上流でこれだけ原油価格が上がると、下流では石油消費の節約が始まるし、「そんな値段じゃあ買えないよ」ということで、なかなか価格が通らなくなる。その分を上流部門が補うということですね。 それから下流では、私どもは石油化学部門も手がけています。最近、パラキシレンやプロピレン、ベンゼンといった化学繊維等の原料が、中国マーケットなどで大きく伸びています。

財部:
石油の開発についてですが、日本は決して強くはないわけですよね。

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西尾:
ええ、強いとはいえません。

財部:
この分野では、新日石は将来どうなっていくのですか?

西尾:
私どもは現在、毎日100万バレルの石油製品を生産しています。目下、自前原油の割合は15万バレルですが、いずれは30万バレル、すなわち自社販売分の3割はほしいと思っています。この30万バレルにしても、世界の石油企業からみれば「中の下」ぐらいのレベル。私どもも、この3年間で2000億円以上の資金を上流に投じようと思っていますが、エクソンモービルなどのいわゆるメジャーはさらに莫大な資金をかけています。また、いま中国が大変な勢いで資源の確保に動いています。

財部:
そこを、どう切り抜けていく考えですか?

西尾:
非常に難しいですが、いま私どもが考えているのは、技術協力をベースとするモデルです。産油国は、省エネ技術や製品を高度化する技術、あるいは環境保全技術が不十分です。サウジでもUAEでも、リビアでも、地下に資源はたくさんあっても、高度な製油技術は持っていません。中国もこの点は同様です。一方、私どもはそれについては得意中の得意ですから、技術協力を通じて原油の確保を図ることを、一つの基本戦略として行っていく考えです。 また、1バレル=70ドルの時代ともなると、開発鉱区の採掘料が非常に高い。それでも70ドル代が続けば採算は合いますが、原油の値下がりリスクも考えなければいけません。

財部:
単純に、油の値段が上がっているので開発がしやすくなる、ということにはならないわけですね。

西尾:
最近になって、「原油価格は現在の水準で高止まりしそうだ」という見通しのもとに、皆、開発意欲が出てきていますが、いま開発に投資しようとしている会社では、それが実現するのはせいぜい3年後ですから。

財部:
それは怖いですよね。

西尾:
怖いですよ。その「3年後」に国際情勢がどうなっているのか、という意味でも――。イランやイラクの情勢も不透明です。ナイジェリアの国内問題、アメリカの原油やガソリンの在庫がどうなっているか。

財部:
たとえば、そのつながりでいくと、ロシアはどのように見えるのですか?

西尾:
ロシアには、まだいくらでも資源はあると思いますから、これから注目しなければいけない国であることは間違いないですね。中国も内陸部に石油はたくさんあるのですが、油の質に問題があり、しかも輸送が難しい。内陸で石油を掘っても、パイプラインを引いて海岸まで持ってこなければならず、トラックや貨車を使って運べるものではないのです。

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