インテル株式会社 代表取締役社長 江田 麻季子 氏

財部:
逆に言うと日本企業も、日本も海外も関係なしに考えればいいという話ですね。

江田:
最近、日本のお客様とよくお話させていただくのですが、皆さんはグローバルに広い視野で展開されています。私も非常に心強く思っていますし、さまざまな分野でキー技術への投資もしっかり行われており、やはり日本のグローバル企業は強いです。そういう企業を日本以外でもお手伝いできるように、「この国に、この会社が行くからよろしく」と全世界のインテルの仲間に声をかけて、全世界で技術革新をサポートできるように今動いています。

財部:
それは大きな力になりますよね。

江田:
だと良いのですけれど。インテルもグローバル企業で、世界50カ国以上に拠点があり、たいていの人が当社を知っています。日本企業のパートナーとして、インテルが全世界でバックアップを行うことができれば、非常に喜ばしいと思って活動しています。

性差以上に個人差が際立つ社会

財部:
事前にお送りしたアンケートなどを拝見し、江田さんの人生があまりにも「男前」なので、私は今日、非常に感動してお邪魔しているわけです。私なりにいろいろ表現を考えたのですが、「男前」と言うのが1番正しい表現ではないかと思います。

江田:
「男前」って、そうですか。恥ずかしいです。いや、どうなのでしょうか、言われないこともないですが(笑)

財部:
なかでも私の心の琴線に触れたのが、「お気に入りの映画」としてアンケートに回答していただいている『ディア・ハンター』なのですよ。

江田:
やはり、絶対にそう来るなと思いました。

財部:
私は元来、映画はとても好きなのですが、大学生だった80年代から90年代半ばまで、毎年1、2回は『ディア・ハンター』を見ていたのですよ。

江田:
70年代後半の映画ですよね。私は毎年、六本木の映画館にリバイバル上映を見に行きました。高校生の時には六本木に行くと大人っぽい感じがして、ワクワクしながら足を運んだものです。ベトナム戦争の話で、割り切れない不条理な部分もありますが、そういうのを見て「私って大人」と思いながら、自分に酔っていました。

財部:
あの頃はそういう時代で、私も大学生でしたから、かなりストレートに(作品を)受け止めていました。その後社会人になっても、なんとなくブルーな気持ちになると『ディア・ハンター』を見て、さらにブルーな気持ちを高めて…。

江田:
そうそう、思い切りブルーに行くのが良いのですよね。私もそうでした。

財部:
でも『ディア・ハンター』が好きだという人はあまりいらっしゃらなくて、このインタビューでもほとんど話題に出たことはないのです。

江田:
非常に「男前」な答えを言ってしまったかもしれませんね。『ディア・ハンター』は、私にとっては原点かも。ベトナム戦争以前のアメリカはまさにパラダイスのようで、何もかもが進んでいる国でした。1950年代のアメリカを見てきた私の両親の世代にとってはそうだったのです。それに比べると『ディア・ハンター』は、社会のひずみや不条理な戦争、移民や社会階層の話などをオープンに描いています。

財部:
とても芸術的な映画でもありますよね。

江田:
良い映画ですよね。もちろん役者さんも素晴らしいし、大好きな映画です。音楽も素晴らしいです、テーマ曲をギターで弾いてみたりして…。思い出してしまいました。「男前」と言われましたけれど(笑)。

財部:
「男前」というのは、私にしてみれば最大の褒め言葉です。今政府が進めている女性活用にしても、「男前」の要素が重要であることをちゃんと言うべきだと思っているのです。

江田:
たとえば、どういうことですか?

財部:
じつは男にも「男前」な人がなかなかいないから「男前」という表現があるわけです。皆が「男前」なら「男前」とは言わないわけで、二枚目とは違います。「男前」と言う時には、その人が持っている資質なり思想なり態度なりが素晴らしいわけで、二枚目のお兄さんを見ても「男前」とは言いません。

江田:
ありがとうございます、褒め言葉なのですよね。大変光栄でございます。私は、男の人っぽくなりたいと思って仕事をしてきたわけではないのですが、「女性だから」ということをあまり意識していませんでした。社長に就任した時、皆さんに「初の女性社長」と言われたのですが、逆にびっくりして「そうだったのですか」という感覚です。

財部:
「男前」の良さを前面に出されたら良いと思います。G&S Global Advisors Inc.の橘・フクシマ・咲江社長はご存知ですか?

江田:
はい、いろいろなところでお会いします。フクシマさんは、経済同友会の「新しい働き方委員会」の委員長でもいらっしゃいますし、その他のいろいろな会合でお会いしますので、必ず「いつもどうも」とご挨拶をさせていただいております。ありがたいことに、最初の頃からずっと応援してくださっています。

財部:
そうでしょうね、フクシマさんにはこの「経営者の輪」とBSの番組(『財部誠一の経済深々』BS11、金曜日21:00〜)の対談にも出ていただいています。私が同番組で「男女の性差はあるのか」と聞いたらフクシマさんは「ない」と答えました。今回、江田さんについて書かれた資料を拝見しながら、フクシマさんのお話がずっと頭の片隅にあったのです。

江田:
私はどちらが良いか悪いかではなく、性差というか、違いはあるような気がします。

財部:
どの国も男社会から始まっていて、苦労しながら社会を変えているわけです。男社会そのものを変えるためには、「女性なのに凄い」とか「女性で社長」という話ではなく、女性に対して「普通にこの人は凄い」と男性が見ても思えるようにならなければいけません。私たちは普段いろいろな経営者に会って、そういう感じ方をしているわけですが、そこには本来、男性も女性もないわけです。ただその人が男性である場合は、皆がそういうシンプルな受け止め方をしますが、女性の場合は構えもするし意識もするわけで、働いている人は皆がそうだと思うのですよね。でもそこを超える何かという意味で、「男前」が、私の中では1つの象徴的な言葉なのです。女性がそのように、男性にすんなりと受け入れられるようなオーラを発揮してくれることが、女性活用を最も促進するのではないかと考えています。

江田:
ありがとうございます。これは長年の訓練で身についてきたのかもしれません。「女性が得意なことは何ですか」と聞かれても、「それはないですよ」と私は答えます。能力的な差は個々人の差だと思いますが、社会的な環境に加えて、小さな時から男の子は積極的に行動する一方、女の子は慎重に考える傾向があるといった、男女間における行動の差は、たぶんどこかにあるでしょう。

財部:
そうですね。

江田:
多数派は男性で、女性は1人ということも結構あります。そういう時に、どうしたら物事を進めやすいかという、ディスアドバンテージをカバーする方法はあると思います。そこをできるだけ支援して人数を増やせば、性差以上に個々人の差が際立つような社会になるでしょう。フクシマさん然り、皆さんと一緒に日本の社会をそういう方向に持って行ければいいなと思います。男性にも女性にもいろいろなタレントを持った人がいますから。

財部:
日本の社会にやや問題があるとすれば、ちょっと異質な人がいたらそれを排除しようとすることがありますよね。これが女性への抵抗感と同根であるのではないかと思います。

江田:
多数派は男性で、女性は1人ということも結構あります。そういう時に、どうしたら物事を進めやすいかという、ディスアドバンテージをカバーする方法はあると思います。そこをできるだけ支援して人数を増やせば、性差以上に個々人の差が際立つような社会になるでしょう。フクシマさん然り、皆さんと一緒に日本の社会をそういう方向に持って行ければいいなと思います。男性にも女性にもいろいろなタレントを持った人がいますから。

財部:
日本の社会にやや問題があるとすれば、ちょっと異質な人がいたらそれを排除しようとすることがありますよね。これが女性への抵抗感と同根であるのではないかと思います。

江田:
ありますよね。私は女性ですから、女性の進出を助ける話をよくしますが、男性の方がきついのではないかと思う時もあります。上司に「こういう形でやるものだ」と命令され、本当はそれでは問題が生じるのに、「言うと角が立つ」と妙に気を使う方が多いですよね。私のように女性だと、男性社会の上下関係とは離れたところにいますから、かなり思い切ったことを言っても角が立たなかったりします。男性は大変だなと思います。

財部:
はまりにくいタイプの男性もいるわけですが、能力があっても、世の中の流れから、ややはみ出ている人がいますから。

江田:
そういう人たちの能力も活用したいところです。これから人口が少なくなりますから全力投球です。皆がいろいろな才能を使い切れると、もっと楽しくなると思います。

財部:
お時間も過ぎてしまったので、最後にアンケートについてお聞かせ下さい。「天国で神様に会った時、なんて声をかけてほしいですか」というのがキークエスチョンで、皆さん人それぞれでまったく違う次元の捉え方をしています。「お疲れ様、好きなことをして楽しかったね」や「もう1回人生をやってみる?」という答えは、は過去に例を見ないトーンですね。

江田:
そうですか。

財部:
多くの人は、神様に対して非常に居住まいが正し過ぎるというか、褒めてもらいたい、労ってもらいたいという願望を持っているような気がするのですが、江田さんのお答えにはそういうものがまったくありません。

江田:
敬う感じというか、畏怖の気持ちが足りないのかもしれませんね。

財部:
敬うことと畏怖の両方があると思うのですけれども。

江田:
(人生は)いつ終わってしまうかわかりませんからね。計画を立てたとしても、例えば自然災害など、何がいつ起こるかわからないではないですか。その意味で、1日1日できるだけのことを、情熱を持って楽しくやることが仕事で1番大切なことだと考えているので、十分楽しませてもらい、もう1回できたらもっと良いかなと思っているのです。図々しいですよね。

財部:
本当に楽しく仕事をされているのだな、ということが伝わってくるお答えですね。

江田:
私の父は60代で亡くなりました。あとで父の手帳を見てみたら、父は5年先まで予定を書いていたのです。どんなにきちんとプランニングをしても、何が起こるのかわからないという部分はありますね。死ぬ時は死ぬ時で、仕方がないのだと思います。だから1日1日をできるだけ大切にすることが大事です。毎日が良いわけではなく、苦しいことも多々ありますが、それも1日経つと楽しみになっていたりしますね。

財部:
そうですか。今日はどうもありがとうございました。

(2014年10月23日 東京本社にて/撮影 内田裕子)