G&S Global Advisors Inc. 代表取締役 社長 橘・フクシマ・咲江 氏
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「プロの経営者」とはグローバルな「プロフェッショナル・チェンジ・エージェント」である

G&S Global Advisors Inc.
代表取締役社長 橘・フクシマ・咲江 氏

財部:
今回、ブリヂストンの津谷正明CEOが、フクシマさんをご紹介されたことには、特別な思いがあるのだろうと思っています。

フクシマ:
津谷CEOのご紹介でサイトを拝見したところ、何人かの方とつながりがありました。現在社外取締役をしている企業2社の経営者の方々 (「経営者の輪」に津谷氏より以前に登場している)味の素の伊藤雅俊社長、三菱商事の小島順彦会長もお出になっていて、一通りカバーされていらっしゃるのですね。

財部:
その意味で、各社で社外取締役を務めているフクシマさんの凄さを私たちは実感できるのですが、まず津谷さんとはどのようなご関係なのでしょうか?

フクシマ:
最初のつながりは、主人のグレン・S・フクシマ(日系3世の元米国官僚、実業家)なのです。今はワシントンを中心に活動していて、(日本との間を)行ったり来たりしていますが、ある方のご紹介で津谷さんにお会いしたところ、ブリヂストンの役員研修で、主人に話をしてほしいというご依頼がありました。その頃に、津谷さんご夫妻とお食事をする機会があり、そこで私は初めて津谷さんにお会いしたのです。

財部:
ブリヂストン、味の素、三菱商事もそうですが、グローバルな会社ほどフクシマさんを社外取締役に採用されています。この辺は、外から見て当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、どんな意図や狙いで、フクシマさんのところにお話が来るのですか。

フクシマ:
先方が最初に、どんな要件を満たす人材が欲しいかをお考えになるので、そこまでは推し量れません。ですが私は前職で、社外役員を含む人材ポートフォリオをどう構築するかというコンサルティングも手がけていました。そこから察するに、まず1点目として、これは非常にユニークな経験でしたが、私が前職でコーン・フェリー・インターナショナルというアメリカ企業の本社取締役を12年間務めたことが挙げられます。同社はリチャード・フェリーとレスター・コーンという2名の公認会計士が始めたエグゼクティブ・サーチ、すなわちヘッド・ハンティング会社です。成功報酬型ではなくリテーナー (前払い) 方式でグローバルに展開している企業が全世界で5社程度ありますが、当時は1番大きな会社でした。そこで私は1995年に選挙で本社の取締役に選ばれたのです。同社は、99年にNY株式市場に上場し公開企業になりましたが、その1年前に外部から新CEOを採用し、(上場時に)取締役もCEO以外は外部の人たちに交代したのです。

財部:
フクシマさんはそのあとも取締役を務められたのですね。

フクシマ:
はい。その当時、私は唯一の女性でアジア人でした。アメリカでは、ボード(取締役会)のメンバーのダイバーシティ(多様性)が、良いバランスを保っていることが、良いガバナンスにつながるという考えが強く、新CEOから「君は大事な会社をオール・ホワイト・メールズ(白人男性)に任せるのか」と言われたので、「あと3年やりましょう」とお引き受けしました。それで3年務めたら「あと3年、もう1期やってくれたら全員を社外取締役にする」と言うので、結果的に12年になったのです。

財部:
貴重な経験ですね。

フクシマ:
私が彼に感謝しているのは、そう言って説得してくれたことで、まさに今、日本企業の社内の方が社外にどう向き合っていくのか模索しているようなことを、後半の6年間に1人で経験できたことです。同社の社外取締役の方々は、アクサ、シーメンスと言った欧米企業の会長、社長の経験者で、グローバルビジネスに関して、知識も経験も豊富な方々でしたので、社外取締役とは何をする役割なのかという点でも大変勉強になりました。もう1つ勉強になったのは、社長が外部から入ったばかりでしたから、社内の過去のことに関しては社外取締役の方々からの「どうしてこうなっているのですか」と言う質問に、社歴の長い私が答えることが多かったことです。新しい社長は、前職は別の業界で、エグゼクティブ・サーチの経験はないので、必然的に私が答えることになったのですが、今まで自分が当たり前だと思っていたことを、外の人にわかりやすく説明するにはどうしたらいいかを考えざるを得ず、非常に良い経験になりました。私の英語は上手でもないので、ずいぶん苦労しましたね。

財部:
いや、英語はお上手だと思いますけど。

フクシマ:
いまだに駄目なのですよ。謙遜ではなく、本当にお恥ずかしいことですが。その時も大変苦労したのですが、今にして思えば、大変良い経験でした。こうしたなかで、最初に(社外取締役の)ご依頼をいただいたのが花王さんでした。当時の後藤元会長(後藤卓也元会長)から「フクシマさんにぜひ社外役員をしてほしい」とご依頼をいただいたのです。「どうして私なのですか」とお尋ねした時、後藤さんが言われたのが、第1点目として「あなたは多分、消費者の目を持っている」ということでした。「女性」とおっしゃらずに「消費者の目を持っている」と言われたのは凄いと思いました。もう1つは、「花王にとって一番重要である人材に関する専門知識を持っている」ということです。それから3点目として、「グローバルなビジネス経験があること」。この3点があるので、ぜひにと言って下さったのです。それ以前には、コーン・フェリーのアジアのコンサルタントが来日した際に、国際事業担当の役員の方にプレゼンに伺い、その席に後藤会長も出席されていて一度お会いしただけでしたから驚きました。

財部:
すぐにお受けしたのですか。

フクシマ:
「自分に務まるか、少し考えさせて下さい」と言って帰宅してみると、洗剤から何から、ほとんど使っているものが花王製品でした。また、私がその頃エグゼクティブ・サーチで担当していた領域が、消費財とラグジュアリーだったのです。ファッションや宝飾品に加え、消費財には、化粧品から何まで入っていましたから、業界的な知識はある程度持ち合わせていました。そこで「お役に立つなら」と、お引き受けしたのです。

財部:
ソニーの社外取締役には、どんな経緯でなられたのですか。

フクシマ:
もともと主人の知っている方が夕食会を催され、そこで安藤さん(安藤国威元社長)ご夫妻とご一緒したのです。その年末に安藤さんから突然「明日ブレックファーストをしたい」とご連絡をいただきました。「お食事で1回ご一緒しただけなのに何だろう」と思ってお会いしたら「社外役員になってほしい」ということでした。「どうして私なのですか」とお聞きすると、海外での役員経験があることなどの理由を、いくつかおっしゃっていました。夕食会の際に、アメリカでのガバナンスの経験についてお話し、日米の差等について意見を申し上げたからかもしれません。当時、出井さん(出井伸之元会長)が一生懸命ガバナンス構築に取り組まれ、(ソニーを)委員会設置会社にするために、社外取締役を積極的に登用していたのです。

財部:
日本もガバナンスが強化されて、社外役員が非常に機能してきましたね。

フクシマ:
そうですね。昔はそれこそ「名前だけの社外役員」ということもあったようで、ブリヂストンの株主総会に私が初めて社外役員候補として出席した時、株主に「どうせ社外役員なんてコーヒー飲みにいくだけでしょう」と言われて歯ぎしりをしたのを覚えています。実際そういう時代もあったようです。アメリカやヨーロッパでは、社外役員をやりたいというニーズがあってマーケットがあります。過去にCEOをされた方達が今度は社会貢献したいということで、金銭的報酬は少ないのですが、株主の利益代表という立場で務めています。社外役員の候補者は、社外役員からなる指名委員会が中心になり、サーチファームを選定し、要件に合わせて選んだ候補者をインタビューします。これはお互い対等な立場で選び合います。最終的にCEOと会って決まるのですが、日本のようにお願いにあがるというものとはだいぶ違います。

財部:
そういうプロセスがあるとは知りませんでした。

フクシマ:
社外役員になってからも、評価のプロセスがあり、弁護士から、「取締役会は機能しているか?」「あなた自身のコントリビューション(貢献)はどうか?」「他のメンバーはコントリビュートしているか?」と一年に一回電話が掛かってきて、株主の本当の利益を代表しているのかチェックされます。私はアメリカのガバナンス制度がベストだとは思っていませんし、日本に適した制度があると思っています。日米が両端にあり、ヨーロッパがその間かもしれません。アメリカの場合は、明らかに株主のためのボードですから、立ち位置がシンプルです。

財部:
分かりやすくはありますね。

フクシマ:
日本の場合は、株主、社員、取引先等幅広いステーク・ホルダー全員のために企業価値を向上するという考え方ですよね。私自身もそちらに近い考え方です。以前、日本のガバナンスはこのままではダメだと、オリックスの宮内義彦会長が日本取締役協会で、ガバナンス向上の運動をされましたが、世論がようやく動き出したところで、アメリカのエンロン事件が起こり、ガバナンス改革に反対の人々は「社外役員がいてもダメだったから、アメリカ的なガバナンスは機能しない。やはり日本的なものの方がよいのでは」と議論が揺れました。でも本当はゼロサムではなくて、自分たちに最適な制度を作る必要があります。エンロンの場合も、ガバナンスの制度の問題ではなく、経営陣の暴走を社外役員が抑えられなかった。つまり、人が問題だったわけです。それこそオリンパスのケースも、社外役員はいましたが、機能していませんでした。仏作って魂入れずではダメなんです。今は株主代表訴訟もありますし、社外役員も覚悟を持って務めるというように、なりつつあると思います。

財部:
今後、日本でも社外役員の評価もどんどん表に出てくるようになりますね。

フクシマ:
そうですね。私が考える社外役員の役割は、その会社が、全てのステーク・ホルダーのために、成長を続け、企業価値を向上するためには何をしたら良いかを一緒になって考えることだと思っています。もちろんコンプライアンスもありますし、不祥事が起きないように目を光らせるというのもありますけど、それに加えて、やはり成長を促せるような、会社の成功を手助けするということも役割だろうという認識をしています。

財部:
それは非常に共感しますね。僕も同じような気持ちでこの仕事をやっていると思います。

日本人に足りない「多様性対応能力」

財部:
海外取材を重ねていくたびに、日本企業がいかにグローバル化されていないかを、嫌というほど実感しました。製造業がグローバル市場で成功したように見えても、モノを作ることがうまいぐらいで、マーケティングや新興国での代金回収などはまるでできていない。そこで私は、日本人が考えているよりも、日本ははるかにグローバル化していないという現実を強く意識しました。それが1つ。加えて、わが国は形式的なことが好きで、皆が社外取締役と言い始め、委員会設置会社がブームになると、皆が形を整えます。これにも意味がないということを、私は取材などを通じてよく知っています。フクシマさんは、その両方に通じている極めて貴重な方だというのが私の認識です。今日、私が本当にお伺いしたかったのは、グローバル化している企業とそうではない会社で、最も違うのはどこなのかということです。

フクシマ:
非常に難しいご質問ですが、私は仕事柄ずっと、人材という視点から会社を見てきました。91年に前職の仕事を始めてから数年で、日本にはグローバル人材がいないと認識したのです。当時、欧米企業のクライアントが主体で、「いずれアジア部門のトップになり、本社でも仕事のできるような人材が欲しい」との案件が多かったのです。ところが、日本企業で海外支社の社長を経験され、功成り名を遂げた方でも、別の企業に行って、異なったインフラで多様性を管理することが出来る方はそう多くありませんでした。要件を持った人材が見つからず苦労したので、講演をしたり記事を書いたりしていましたが、外資系で働いた経験を本にしてはどうかとのお話を頂き、1997年に他4名の方と共著を出版しました(大滝令嗣、橘・フクシマ・咲江、増岡邦明、高橋秀明、戸国靖器著『プラス思考のアメリカ人 マイナス思考の日本人』(ジャパンタイムズ))。

財部:
そうですか。