株式会社 Mon cher 代表取締役 金 美花 氏

春花:
イスラムでも南米でも(『堂島ロール』は)世界中の方が召し上がっても、おいしいと言っていただけるケーキなのだという自信につながりました。もっと海外の皆さんにこのおいしさをご紹介し、広げられたら、と思います。「クールジャパン」という言葉がありますが、スイーツ界には、国はまだそこまで目を向けてくれていません。もっと後押しして欲しいと思いますが、北海道の生乳を使ったクリームから生まれた日本のおいしさを海外に届け、紹介するという自分たちがやっていることは、「クールジャパン」がやろうとしていることの一環ではないかと思います。

財部:
「クールジャパン」よりも良いですね。国の世話になっても仕方がないですよ。

美花:
私は、10年経ったら(日本は)もう凄いとは言われなくなると思います。なぜなら、外国から日本に多くの人が学びに来ているからです。日本のケーキ屋さんもそうですが、みんなフランスにケーキを学びに留学するのでなく、東京の製菓学校に来るのです。だから日本のケーキ屋さんがここにしかないと思っているものでも、韓国を始めいろいろな会社が作り始めているから、あと5年も経てば、日本とあまり変わらないところまで行くのではないでしょうか。その時に「日本製です」と言っても、今ほどの希少価値を感じられないから、(海外に出るのは)今の方が良いのでしょう。今出ようと思ったら、個人では資金面で限界があるので、業務提携などを結ばせていただいたらいいかな、と。できたらシンガポールとドバイで。

財部:
オーストラリアで牛を飼えば、もう少し短い時間で北海道と同等のものが作れるでしょう。

美花:
日本の国家はこれから北海道の酪農を守るそうです。後継者がいないことが1番大きいのですが、酪農農家は1年に200軒潰れています。そうした中で、ニュージーランドの大きな会社が、北海道の乳業メーカーを買収しに来ていたのです。北海道で生産した乳製品を世界中に売るのが目的なのですが、それで日本政府が「ニュージーランドがやるなら日本がやればいいではないか」ということになったのです。私たちは、北海道の生乳を使ったクリームを飛行機に載せて自分たちでビジネスを行っていますが、これから国として北海道のクリームを世界に売り出すとニュースに出ていました。ニュージーランドでもやれそうですが、北海道の気候がベストなのでしょう。私もクリームの食味検査をしょっちゅう行っていて、3年間で100発100中当てていますが、試食すればするほど、この『堂島ロール』のクリームがなぜおいしいのかという理由がわかってくるのですね。

財部:
それはなぜなのでしょうか?

美花:
最低限の保存料しか入れていないのです。そのため『堂島ロール』は、パックに入った状態で賞味期限が普通のケーキの半分しかありません。余分なものを入れていないから、絞りたてのおいしさが残っている。これは『堂島ロール』がたくさんのお客様に求められたからできたのです。そうでなければ、たくさん作ってもロスが出るからできません。私たちがオンリーワンのクリームを作ることができたのは、毎日多くのお客様にお買い求めいただいたから、この味を創り上げることができました。シェフを中心に開発を行うと、固まりやすさや、だれにくさ、日持ちなど、職人にとっての扱いやすさが優先されると思います。その点、『堂島ロール』のクリームは泡立てにくく、だれたり、くずれやすかったりする「面倒な子」ですが、それでも「これがおいしいです」と、食べる側の専門である私が無理をお願いして注文して作ってもらったので、美味しいものができたのです。

財部:
そうなのですか。

美花:
乳製品といえば、自分たちが1番だと思っているほどの誇りがあるニュージーランドの企業がそこまで北海道を評価しているのですから、まだまだ日本が輸出できるものは数多くありますよ。この前、大手商社の方と話をする機会があったのですが、「昔は、世界の良いものを買ってきて日本で売るのが自分たちの仕事でしたが、日本の人口もだんだん減ってきて、海外製品も高くなり、デフレで高いものが買われなくなったので、日本の良いものを世界に売るように方向を変えました」とおっしゃっていて。まさにそれが正しいと思いました。私たちは、クリームでそういうことをさせてもらっているのです。

財部:
日本の酪農をも支えますよね。

美花:
はい。以前、百貨店さんから北海道にも出店してほしいという話をいただいた時、どうしようかと迷ったのです。その頃たまたま牧場視察があり、北海道の酪農家さんたちにお会いした時、「自分たちが作る乳製品が、こんなにおいしいと言われて行列になることがとても嬉しい。モンシェールが注文するから生産量も増えた。自分たちはもっと頑張れるから、じゃんじゃん売ってください」と言われたのです。「数量限定です」とか「規模は広げません」というポリシーを貫くお店は美しいし、私も大好きなのですが、生産者さんのことを考えたら、このクリームの良さをもっと伝え、もっと忙しくして発注量を増やすことが本当の社会貢献になるのだなと思いました。今年は当社の設立11年目で、かつてのような行列はなくなったように見られがちですが、韓国と上海、香港、南京に店舗があるので、実はクリームの発注は今年が一番多いのです。当初は国内だけだったので少し需要が落ち着きましたが、その次に海外に行ってから、また発注量が最高になったので、酪農業界も非常に喜んでくださっています。だからこの行き方で良いのだと思います。

財部:
国内の爆発的なヒットだけで終わらず、海外にもブームが受け継がれていて発注が増えているというのは素晴らしい話ですよね。

春花:
特に韓国では、10年間で培ったものを非常に活かせています。いくらデパートに(店舗が)入っていても、それだけでは不十分で、近所にケーキサロンを設けなければなりません。そこで、韓国のデパートでは新世界百貨店と現代百貨店に2店舗を展開していますが、それとは別にティーサロンを1店舗設けています。(商品の)バランス良く、人気の商品はもちろん、私たちがやりたい世界観を表すような商品・空間を作っています。本当に日本での経験が海外に活かされていますね。

美花:
私たちが今、ロールケーキ屋さんだけで終わらないようにしているのには理由があります。モンシェールの商品がラスクやクッキー、バームクーヘンのように日持ちが良いものだったなら、たぶんそれだけで頑張ったと思うのです。賞味期限が長いので、その場で食べるのもありで、ギフトも、遠くに持っていくのも、通販もありだからです。でも『堂島ロール』は本当に繊細なので、お客様のご利用用途が局限されるのです。買って2時間以内に冷蔵庫に入れられるか、すぐに食べられる人以外は駄目、結婚式の引き出物と言われても駄目、通販で送ってくださいと言われても駄目。というように、いろいろなところでお客様に駄目と言わなければならないことが多い中、もう少し規模が小さかったなら、自分たちやアルバイトさんのシフトで調整もできたでしょう。でも、これだけの規模になり、スタッフたちも落ち着いて何年も働き続けられる会社になろうと思うと、賞味期限が短い商品だけで皆が食べていくことには少しリスクがあります。そこで『堂島ロール』ではできないギフトや通販、結婚式の引き出物にお使いいただける商品も手がける、という形で今やっています。実はそちらは、去年の倍の人気です。

財部:
とてもかわいらしい商品もありますよね。

春花:
売上比率が変わってきていまして、以前は売上の90%がロールケーキだったのですが、今は50%になっています。そうなっていくのが良いのです。

美花:
実際、売上高の50%は、違う商品で取っているのです。

財部:
多角化を進められていると、いろいろ資料でも拝見しましたが、今一番伸びているものは何ですか?

美花:
焼き菓子、クッキーの詰め合わせです。お中元とお歳暮のマーケットは減っていると思いますが、私たちはそもそも『堂島ロール』が売りだったので、お中元とお歳暮には参加できませんでした。虎屋さんなどのように、デパ地下に出店している会社の大きな売上はお中元、お歳暮、帰省土産ですが、私たちもそこで買っていただけるようになったことが大きいですね。夏はスイーツの需要が落ち、7月は売上が下がるものですが、今年はお中元に加え、通販で『堂島アイスロール』が大好評です。『堂島ロール』の形をしたアイスクリームですが、これが人気です。結局『堂島ロール』つながりなのです。

春花:
フルーツが載っているものが今年の新商品(『堂島アイスロール デコレーション』)です。来年はさらに上をめざせるのではないかと思います。ギフト用に発泡スチロールのパックに入っているのです。

美花:
お客様から見た『堂島ロール』と、お中元やお歳暮などのギフトとの掛け算で生まれた商品です。

財部:
やはり、リンクしないと駄目なのですね。

美花:
『堂島ロール』の露出は、本当はしたくないのです、安売りに見えるので。その一方で、「『堂島ロール』以外のものは一生懸命売ってよ、『堂島ロール』は大切にしなければならない、無理に売らなくていいから」と言っています。そういう中で、ずっと大手通販サイトへの出店は遠慮していました。でも『堂島ロール』以外のものなら良いかなと思い、「モンシェール楽天市場店」を昨年12月にオープンしたところ、1週間で1社が選ばれる週間MVP(ショップ・オブ・ザ・ウィーク)をいただきました。『堂島ロール』つながりですから。これ(『堂島アイスロール』)は、本当はアイスロールのためのデザインではなかったのです。お客様が『堂島ロール』を求めているのだ、という思いがあったので、何らかの形でロールケーキをつなげて…。クリスマスケーキも、ミニロールが載っているほうが人気です。これもすべて『堂島ロール』が愛されてきた実績なのだな、と。

財部:
お客様も自慢できますよね、これは『堂島ロール』なのだよ、と。

美花:
光栄です。もっとがんばります。お客様にモンシェールを選んでいただくという部分では、『堂島ロール』が目立ち過ぎたぶん、お客様のハードルが高いので、『堂島ロール』超える焼き菓子などをもっと考えなくてはなりません。私たちは商品開発やものづくりは得意ですが、これまではパッケージングや販促物などに手をつけなくても売上が立ってきたので、今一生懸命それを考えています。『堂島ロール』の場合、お客様に伝えるべきところを伝えなくても、お客様がそれを知っていて広げて下さり、何年間もビジネスをさせていただきました。ここまで大きくさせていただいて、『堂島ロール』とお客様に、ありがとうございますと言いたい気持ちです。

財部:
アジアの日本ブームはこれからですよ、まだ始まっていないくらいです。

春花:
香港にいた時、私たちは店頭に立ってお客様と接しながら、本当に北海道がお好きなのだなあということを肌で感じました。シンガポールの方もそうです。それから、北海道の生乳から生まれたおいしいクリームを使っていることを、もっとお客様にご紹介していこうと思い、今取り組んでいます。メニューも英語版と中国語版と韓国語版を作成中で、店舗でもしっかりお伝えしていけたらと思っています。

財部:
シンガポールでは、北海道と名前をつけておけば、必ず売れるぐらいのブランドイメージです。偽物もずいぶんあるようですね。

春花:
それだけ北海道が素晴らしいからですね。

美花:
北海道はアジアのスイスですね。私たちが子供の頃スイスに憧れていたように、今のアジアの方々は、北海道に憧れています。

財部:
最後に、事前にお送りしたアンケートは美花さんだけで恐縮だったのですが、「天国で神様にあった時、なんて声をかけてほしいですか」という質問がありますが、「来世はどこの誰になりたいですか」という回答には、なかなか考えさせられるものがあります。

美花:
私には、自分のことを評価してほしいという気持ちはないのです。「金さんはこのような人でしたね」と言っていただけるようなことは、たぶんないですから。でも、次はバッタになるのかセミに生まれ変わるのかわかりませんが、自分の体はなくなっても魂の数は決まっていると思っていますので、「偉かったね」と褒められて幕を閉じるのではなく、次に自分が生かされたら嬉しいです。神様に、次にもう1回違うステージを準備してくれる、ということを言っていただけたらいいですね。「お疲れ様」と言われるよりも。

財部:
アンケートで圧倒的に多い回答は「頑張ったね」とか「よくやったね」というものです。「褒めてほしい」というのもありますね。

美花:
本当にそういうことは1%もないですね。褒めてほしいとは思いません。次も生かされたいですね。

財部:
いろいろなお話を聞かせていただいて、とても楽しかったです。

美花:
双子で。本当に光栄です。

財部:
今日はどうもありがとうございました。













(2014年8月5日 日本橋三越本店にて/撮影 内田裕子)