株式会社アシックス 代表取締役社長CEO 尾山 基 氏

財部:
私は放送陸上の低学年リレーで全国1位になりました。私たちの時代は11秒1ぐらいがトップでしたね。

尾山:
そうですか、私は中学生の時に3年間バスケットをやっていました。1年生の時にハードルをやれといわれて、80メートルハードルで12秒5ぐらいのタイムで県大会に出たのです。その時に隣で走っていた人が11秒7ぐらいで、放送陸上で10番目あたりに入ってきました。50メートルは勝ったのですが、私は50メートルを超えると必ずといっていいほどタイムが伸びません。やはり短距離は上半身ですからね。腰と筋肉でスタートダッシュを稼ぐのですが、バスケをやっていたので上半身が細かったのです。

財部:
私の人生は、ずっと「オニツカタイガー」なんですよ。

尾山:
そうでしたか、嬉しいですね。「オニツカタイガー」にはストーリーがありましてね。「スポーツスタイル」の中で、今もう一度「オニツカタイガー」をヘリティジ、もっと言えばラグジュアリースポーティブランドに持って行く予定です。1足2万3、4000円の商品がよく売れていますが、どうしても「スポーツスタイル」にふさわしい商品が欲しいのです。

財部:
ほお。

尾山:
だから、スポーツスタイルカテゴリーを再構築しようと思っているのです。一方、「オニツカタイガー」はヘリティジのレベルを卒業し、もう少しカジュアルな感じで、ラグジュアリーなスポーティーブランドに変えていく。今その方向に動いており、ジャパンメイドやコラボなどを通じて、30%増ぐらいで売れているのですが嬉しいですね。

財部:
そんなに売れているのですか。

尾山:
はい。ここを最初「スポーツスタイル」でやっていたのですが、カテゴリーネーミングとして、ブランド的には別のブランドで復活させます。(商品を見ながら)これは「スポーツスタイル」で、「アスレチック」と「オニツカタイガー」の間の80年代に出た商品です。私は当時アメリカにいたのですが、機能商品的にはアシックスだと覇権を取っていましたね。そこから「スポーツスタイル」は定番商品になってきたのですが、売上とは別に、この辺りはもう少しチューンナップすべき課題です。また、「オニツカタイガー」はヴィトンやグッチのような方向に持って行きます。アメリカンカジュアル的なものかボード系のようなものかわかりませんが、もし足りなければ買えばいいと思います。M&Aにも手をつけて、絶対に世界第3位にします。ニューヨークシティマラソンにおけるアシックスのシェアは約50%ですが、競争が激しくなってきていますから。

財部:
50%、凄いですね。それはなぜでしょうか。

尾山:
やはりモノがいいからでしょう。履けばわかりますよね。海外では特にうちのランニングシューズが良さは認知されています。しかし何事にもメリットとデメリットがありまして、5、6年前にお子さんが野球をしているという日系人の方が来て、「(アシックスは)ランニングシューズカンパニーだよね」と言われた時はかなりショックでした。一点集中は確かに強いのですが、われわれがスポーツメーカーとして考えた場合、ランニングシューズカンパニーというくくられ方は結構恐いですよね。テニスシューズはアメリカ、ヨーロッパで伸びていますし、クリケットやラグビー用のシューズはイギリスやオーストラリアで高いシェアを維持しているのですが。

財部:
米国のファッションブランド、コーチともコラボレーションしているのですよね。

尾山:
はい、「オニツカタイガー」ブランドで「FABRE NIPPON」「FABRE DELUXE」の2種類を販売しています。表参道のラルフローレンの近くに「オニツカタイガー」の旗艦店があります。

財部:
マラソンブームはある意味で、スポーツに対するお金の遣い方を変えました。素人がスポーツ用品にこれほどまでに高い機能を求めることは、かつてなかったですよね。

尾山:
そうですね。マラソンを走る女性はほぼ全員タイツをはいています。素足はゼロで、これが普通になりました。男性もタイツ着用が普通になったということが凄いですね。

財部:
タイツは高いですよね。1万円以上するのに、みんな買っていますから。

尾山:
そうですね。女性は矯正下着があるからまだしも、筋肉をぶれさせないとか、ここはルーズにして、フィットさせるというのは普通に受け入れられているのでしょうけれど、この世界に男性が入ってきたのが凄いと思います。この表を見ると、30代や40代でしょう。単なる寒さ対策とは異なり、服装カルチャーの変化ですよね。

財部:
話は変わりますが、アシックスが選ばれる理由として、モノがいいからだと伺いました。シューズにおけるものづくりは、まだ差別化ができるのでしょうか。

尾山:
できますね。革靴を去年手がけていたのですが、やはりお酒を飲んだ次の日の朝に履く靴は、自然と前の日に履いていた靴になると思うのです。女性の方も、自分に合ったブランドの靴を履いていると思いますが、ヒールの高さや革の感覚には好みがあって、疲れた日には楽な靴を履きたいですよね。

財部:
楽な靴というのはどういう構造なのですか。

尾山:
いろいろありますが、やはりソールに違いがありますよね。

財部:
そういう部分は、特許で守られているのですか。

尾山:
基本には特許で、最近では意匠権というものもあります。たとえば独自技術としては靴のアッパー(甲革)とアウターソール(靴底)の間にあるミッドソール材のスポンジで「EVA」(エチレンビニルアセテート)という素材があります。開発されてから50年以上が経っていますが、これが立っていても歩いていても非常に楽なのです。それだけでも良いものではありますが、もっと素材を研究するように話しています。最近では「季節対応ウェア」をもっと作れと言っていたのですが、やっと出てきました。

財部:
「モーションサーモ」ですね。

尾山:
今年の正月の三が日に、私も「モーションサーモ」を着てゴルフに行ったのですが、これはいいですね。旭化成さんと共同開発した吸湿発熱素材「サイバーウオーム」を使用していて、冬場でも寒くならないウェアです。

財部:
凄いですね。私は最近ウォーキングをしているのですが、新橋駅の手前にアシックスさんのウォーキングの専門店(アシックスウォーキング新橋)ができました。

尾山:
はい、1番新しい店ですね。新橋―虎ノ門間に「マッカーサー道路」が開通し、アメリカ大使館まで1本で行けるようになりましたから、交通や人の流れが変わるので期待したいところです。

財部:
アシックスさんのウォーキングシューズもやはり良いのですか。

尾山:
デザインも重要なのですが、材料が変わるといった方向での進化があってもいいのではないかと思っています。あとは、パーソナルフィットでお客様の足に合わせるという方向で。ランニングシューズではすでに実施しているので、今度はウォーキングシューズでやっていきたいですね。

財部:
それは、ぜひ作りたいと思いますね。

尾山:
ぜひうちの靴を試してみて下さい。

財部:
そうします。今日は長時間ありがとうございました。

(2014年2月22日 東京ビックサイト 東京マラソンEXPO会場にて/撮影 内田裕子)