アートコーポレーション株式会社 代表取締役社長 寺田 千代乃 氏

思考は男性的、趣味は女性的

財部:
頂いたアンケートを拝見すると、あまりにも男っぷりが良いというか、人生に影響を与えた本は「龍馬がゆく」、学生時代は「剣道」、尊敬する人は「坂本龍馬」。女性からはなかなか聞かれない答えだと思いました。

寺田:
単純と言えば、単純なのですけどね(笑)

財部:
いえいえ。これはどうしてなのですか。

寺田:
初めて読んだ長編小説が吉川英治さんの「平家物語」と司馬遼太郎さん「龍馬がゆく」だったのです。龍馬を読んだ時にすごく恰好良くって、あこがれの男性みたいな感じでした。自分の子供が生まれた時に(龍馬のように)背中に毛が生えていたので、これはすごいと、本当に思ったくらい(笑)。15年くらい前、引越しの際に、「龍馬がゆく」を再読したのですが、龍馬はもちろん格好良いのですが、経営者として見てもすごい、政治家としても私利私欲じゃなくここまでやれるのか、というように全然違う読み方をしました。

財部:
最初は若い女性として憧れて、今度は経営者となって改めて龍馬という人物の凄さを感じたと。

寺田:
はい。経営の中でいろんな壁にぶつかり、それを乗り越えていくことの連続でしたからね。龍馬のプロデュースする力、人と人を繋いでいく力、新しい発想を実現していく行動力、娘の頃とはまったく違う受け止め方をしました。

財部:
剣道をやっていたのはどうしてだったのですか。

寺田:
父が剣道をやっていましたし、私の好きな先生が剣道部だったということですかね。会社の敷地内にも剣道場をつくったのですよ。

財部:
武道が持っている精神がお好きだったのですか。

寺田:
あまり意識していなかったですね。中学生の時、先生が家庭訪問で来まして、母に「千代乃さんは男の友達ばっかりですが気にしないで下さい。ぜんぜん普通ですし、何にも問題ありませんので」とわざわざ言ったと。(笑)剣道部も女性は私1人でした。子供の頃からそうでしたので、男性と何かをすることにまったく抵抗がないのです。逆にビジネスを始めてから学ぶことが多いですね。

財部:
ご自身が男性的だというご認識というのはあるのですか。

寺田:
みんなはそう思っているみたいですけど、私は人並みにオシャレもしたいです(笑)。でもやはり思考は男っぽいですかね。普通に男の人の中にいましたし、子供の時からリーダーシップは取られるより、取っていた側でしたね。

財部:
同友会の代表幹事というのは生半可なポジションではないですよね。

寺田:
本当は何年も「無理、無理」と思って辞退をしていたのです。でも「やりたい人よりやらせたい人や」と、「あんた、今やらないでどうする」と背中を押してくれる方が沢山いましてね。これから女性が財界活動をなさる中で、こういう事も女性は普通にできますよ、ということになっていけば良いなという思いもありお引き受けしました。

財部:
財界は「女性活用」を声高に言っていますが、僕から見たら「財界ほど男社会はないだろう」と思っていて、そういう中で代表幹事になられたっていうのは画期的なことだと思います。

寺田:
他の代表幹事の方と比べますと、企業規模からしても、そこにいく規模になっていなかったと思います。もちろん自分なりにしっかりやってきたつもりですが、見えない所で随分サポートして頂いていたというのが、時間がたってからわかりましてね。「私がそういう苦労してないということは、どなたかがやってくださったのだ」と。

財部:
それに気づかれるというところが素晴らしいですね。

寺田:
いえ、気づくのが遅いぐらいです。

財部:
最初に伺った龍馬の話、剣道の話と対照的に、好きな映画は「男と女」だと。白黒でストーリー、音楽に哀愁があり、心に残っていると。

寺田:
そうですね(笑)。

財部:
宝物はティファニー社製のアンティークコーヒーサーバー。すごく女性的な感覚なのですね。

寺田:
ええ、趣味はそうなのですよ。

財部:
趣味は女性的なのですか。僕はちょっと意外でした。もっと厳しい方をイメージしていました。でも、お目にかかった雰囲気とか会社の内装、この部屋の設えなんかも、じつに女性的ですよね。

寺田:
趣味とか、家の設えとかはそうですね。うちの社員やお友達は「ああ、これは千代乃さんの家やな」と、社長の家はわかるといいます。自分ではこだわっているわけではないのですが、自然とそうなっているのでしょうね。

財部:
見てわかるというのはすごいですね。

寺田:
あと、アンティークのシルバーのコーヒーサーバーなのですけどね、ニューヨークに進出という時、他にやれる人がいなかったこともあって自分で行って、現地のスタッフと地域をクルマで見て回ったりしていたのですが、ある時、銀の量り売り市をやっていたのです。ぱっと見た時にすごく綺麗な銀食器があって、とても触ろうという気にならないくらい真っ黒になっていたのですが、足が猫足で「うわ、この足、綺麗だな」と思って、これの蓋はないかしらと、みんなで蓋を探してもらって量り売りで買いました。持ち帰って、うちの社員のお子さんに小学生の子がいたので、あなたアルバイトしなさい、銀磨きで磨いてちょうだいっていって、磨いていたらティファニーの刻印がでてきたのです。

財部:
ほう、ティファニーはあとから出てきたわけですね(笑)

寺田:
それをティファニーに持って行ったのですよ。そしたら「これは間違いなくうちのものです」と。お引き取りしますというから、「いえいえ、売りませんと」、そんな問題じゃありませんって(笑)。では、これを綺麗にしますということで、中まですごく綺麗にしていただきました。お金もとらずにですよ。これぞブランドだと思いました。こうありたいと本当に思いましたね。

財部:
すごいですね。

寺田:
大きなものですから重たいのですけど、目方だから知れているのです。十数万円くらいだったと思います。でも120、130年前のものだったんです。そんなものが市に紛れ込むのですね。結果的には大変なものだったのですけど、私が古いものがたまたま好きだったので、良い出会いがあったのですね。私の宝物です。

財部:
若い方へのアドバイスに「夢を持つこと」とあります。僕は夢というのは内発的なもので、夢を持てる人は持てるし、持てない人は持てないと、結構突き放したところがあります。テレビなどで、やたらに漠然としたイメージで「夢を持て」と言っているのも少々うんざりしています。でも寺田社長の夢というのは、かなりリアルな目標を持って実現されてきたものだと思います。例えば会社の売り上げ百億円という夢、それを社員みんなで共有してきたというのは良い話ですよね。今は本当に夢の持てない人たちが多いと思うのですが、そこはどう考えておられますか。

寺田:
あえて夢や目標を持たなくても、行動できる方もおられると思いますが、私はどちらかというと自分自身があまりきちっとしていないのか、夢とか目標をつくることで、そこに向かって行かなきゃと思えます。それは自分に自信のないところかもしれませんが。事業をしていて思うのですが、会社の規模がいくら大きくなって成功しても、社員がお互いに笑い合えないのであれば、そんなものはたいしたことはないのだと気が付いたときがありました。現在、100支店ぐらいありますが、良い所とそうでない所があります。良い所に共通しているのは支店の雰囲気がすごく良いということです。すごく空気がいいのです。

財部:
良い雰囲気をつくるためには、目標や夢を共有するということが大事になりますか。

寺田:
そうだと思います。そしてそれは経営者の責任だと思います。経営者に限らずリーダーの責任だと思います。

財部:
そういった夢、経営の目標はやはり社長おひとりでされるのですか。

寺田:
そうですね。でも私は決断する時に時間はかけません。そこに至るまではじっくりといろいろなものを見たりしますが、決断するのに時間がかかってるものは止めることにしています。その行動を決断できないということは、止めた方が良いということだろうと思うからです。

財部:
「夢」という言葉の使い方が少し納得できました。

寺田:
夢を語っていると本当にそこに行こうという思いになります。でも、単に夢を実現するだけではなく、私にもインセンティブがあり、一緒にやっていく人にもインセンティブがあるということは大事だと思いますね。

財部:
今日はありがとうございました。

(2013年7月10日 大阪府大東市 アートコーポレーション株式会社 大阪本社にて/撮影 内田裕子)