株式会社サムライ  代表取締役 佐藤 可士和 氏

財部:
そうですね。

佐藤:
だから、いろいろな意味でクリエイターは面白いですね。財部さんもクリエイターですし、柳井さんも三木谷さんも、使っている「絵の具」が違うだけで、企業を表現媒体にしているクリエイターです。ある意味でスティーブ・ジョブスもそうですし、率直に言うと、能動的に何か物事をやろうとしている人は「創造者」だと思うのです。その一方で、親が運んでくる餌を、口を開けて待っている小鳥のように受動的な人たちもいる。彼らはクリエイターではありませんから、話してもあまり面白くないのではないでしょうか。

光の当て方でモノの見方は変わる

財部:
事前にお送りしたアンケートに、カバー音楽が好きと回答していただいています。「カバーを聴くと、オリジナルの本質がわかる」ということですが、どういうことなのですか?

佐藤:
「iTune」ができたので、とても楽しいのですが、曲名を入れて検索すると、いろいろなアーティストが歌っているカバー曲が出てきます。あまり好きではなかったヒット曲が、歌い手とアレンジが変わることで、じつは「とてもいい曲ではないか」と思うことがよくあります。オリジナル曲を歌っていた人のスタイルが好きではなかっただけで、曲の持っているポテンシャルなどは素晴らしかったのだな、と気付かされることが結構あるのですよ。

財部:
そうですか。

佐藤:
そういう曲がたくさんあるので、表現というのは面白いと思います。クラシックの作曲家が書いた曲を同じように演奏しても、指揮者や楽団によって曲の感じが変わります。それが表現の違いなのですが、カバー曲になるともっと大胆にやっているので、元々その曲が持っている「構造」のようなものが見えてくるのです。

財部:
僕は逆の体験をしまして、そんなに好きとは思っていなかったアーティストが歌うカバー・アルバムを聴き、「あれ、この歌はもっといい曲ではなかったか」と感じて、オリジナルを歌っていた歌手を思い出し、「ああ、もしかして自分は竹内まりあが好きだったのかも」なんて発見したことがありました。

佐藤:
こういう話は面白いですね。とても興味があるのですが、なかなか他では話ができないので、嬉しいですね。かつてアンディ・ウォーホルがキャンベルのスープをモチーフにした作品を描いたのも、カバー曲のようなものです。キャンベルのスープは、日本で言ったら味の素のポタージュスープのようなもので、スーパーでたくさん売っているような、ごく一般的な商品です。誰も素晴らしいデザインだと思っていないものを、アンディ・ウォーホルはああいう形で、ある意味カバーしたのです。

財部:
なるほど。

佐藤:
それによって、大量生産とは何かというメッセージを投げかけたり、デザイン的にもまったく違うアレンジを加えたのです。今、キャンベルのスープをここに飾ってもあまり格好良くはないでしょうが、それがアンディ・ウォーホルのシルクスクリーンになると「キャンベルのスープはこんなに格好良かったのか」というデザインになる。そういう方向からポップアートに入っているのです。同様に、パンクバンドがいろいろな曲をカバーしているのを聴いていると、非常に面白いことをやっているバンドが数多くあります。元々パンクとは対極にあるようなものを、パンクアレンジで演奏すると、「この曲ってこういうことだったのか」というメッセージになったりしますよね。

財部:
何か、最終的にデュシャンの話に戻っていくようですね。

佐藤:
そうですね、やはり光の当て方でモノの見え方が変わるという、デュシャンの話に繋がりますね。僕がやっている仕事も、楽天やユニクロ、セブン-イレブンなどに対して、それぞれ違う光を当てて、たとえば「ユニクロってこうだったのか」と社会の中で立体的に見せるようなことだと言えるでしょう。まさにジャーナリズムも同じようなもので、インタビューする人によって見え方がまるっきり変わってしまうし、率直に言えば「メディア」(媒体)ですよね。社会とはそういうことで成り立っていると思うので、コミュニケーションとしてのデザインはとても大切なものだと僕は考えています。

財部:
そうすると、「好きな映画」の「ジュラシック・パーク」はどういう文脈で…。

佐藤:
もしかしたら同じようなことかもしれないですが、少し違う文脈で言うと、美大にいた時、スティーブン・スピルバーグ監督はクリエイターとして傑出した人物だと思っていました。でもハリウッド映画はメジャーでお金もかかっている一方で、アーティスティックではないと言われがちで、フランス映画や単館で上映される作品が格好良いとされていました。そういう風潮が大勢の中で、僕は小学生の頃に「ジョーズ」を見て以来、毎回新しいテクノロジーを採り入れ、違うテーマの作品を次々にヒットさせていくという、スピルバーグのような凄い人は他にいないのではないかと思っていました。

財部:
そうなんですか。

佐藤:
「ジュラシック・パーク」は恐竜映画ですが、僕は幼い頃から怪獣や恐竜が大好きで、それをSFXの特殊技術でこんなにリアルに再現できるということに驚きました。たぶん(スピルバーグは)そこに賭けていたのでしょう。僕は、その完成度の高さに対して驚いたということかもしれません。先のカバー曲やデュシャンとは少し違うかもしれませんが、表現力とはこういうことなのかと思いましたね。

財部:
可士和さんから見ても、「ジュラシック・パーク」の表現力はやはり傑出していますか。

佐藤:
映画「ジュラシック・パーク」ができてから、恐竜に対する解釈が大きく変わったと思います。ティラノサウルスも従来のものよりもっと前のめりな格好で走っていたように描かれています。かなり研究したのだと思いますが、最近ではティラノサウルスに毛が生えていたのではないかという話も出てきていますね。あの映画によって、そういうことも注目されるようになったりと、いろいろなところに影響を与えたのではないでしょうか。僕の5歳の息子の恐竜のおもちゃを見ても非常にリアルで、鳥類の延長上にあるような恐竜のフィギアもたくさんあります。「ジェラシックパーク」の影響を感じますね。

財部:
僕たち、子供の頃はゴジラなんて見ていて、あんなお粗末なセットでも本当に東京の街が壊されていると思うくらいだったのですが、ジュラシック・パークの精度の高さは、本当に恐竜はこうやって生きていたんだと目撃したかのような体験でしたよね。

佐藤:
素晴らしいですよね。同様に、ジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」を制作してから、それまで「子供騙し」の域を出なかった宇宙戦争ものの映画のクオリティが非常に上がりました。当時はまだ日本の戦隊ものなどでも、宇宙船や怪獣のうしろに紐が映ったりしていました。ジョージ・ルーカスにしろスティーブン・スピルバーグにしろ宇宙や恐竜といった誰も本物を見たことがないものを、どうすればリアルに見えるかということの追求は凄いですよね。

財部:
たしかにリアルさの追求という点では、抜きんでたものがありますね。

佐藤:
たとえば「ジュラシック・パーク」に、病気にかかったトリケラトプスが草原に倒れているシーンがあります。あの部分については「ナショナルジオグラフィック」やドキュメンタリー番組「野生の王国」で、象が倒れている映像などを世界中の人々が見ていますから、そういうポーズや質感をかなり研究して映像を作っていることが瞬時にわかりました。「ジュラシック・パーク」では、最後のシーンでアパトサウルスという大型の草食恐竜が、草を食べながら立ち上がるのですが、それも象が立ち上がるのと同じような重量感がありました。たぶん、そういったことを参考にしながら、細かいディティールに妥協しないで映像を制作しているのでしょうね。

財部:
そこまで見ているのが凄いですね。最後に「苦手なもの」は「計画性がないもの」で、「リフレッシュ方法」は「家の片付け」とアンケートにお答えですが、何か共通点がありそうですね。

佐藤:
そうですね。リフレッシュについては、ジムに行って体を動かすことも好きなのですが、それもどちらかと言うと「体を整理している」感覚です。トレーニングをして体幹を整えると、崩れてきたり、ぎくしゃく曲がっていたりしたところが直り、体の軸が通って脳もすっきりします。その感覚が欲しくてジムに通っているのです。それと一緒で、この事務所でも、「ここを整理しながら仕事をする」というスタイル、それも「どうすればもっと整理できるのか」ということを毎日の課題にして仕事をしています。

財部:
これ以上、整理するのですか。ほとんど無駄な物がないですよね。

佐藤:
ここも収納スペースなのですが、この中をどう整理するかということなどを考えています。僕がやっている仕事自体が情報の整理のようなものですから、それを「働き方のデザインにしよう」とみんなで話していて、どうすればもっとクールにできるかを日々模索しています。家もだいぶ綺麗なほうだと思いますが、子供もいますし、生活していれば当然モノも増えます。だから「本当にこれでいいのか」とつねに考えていて、家が片付くと本当にすっきりしますね。これが僕にとっての1番のリフレッシュです。

財部:
さすがに徹底していますよね。

佐藤:
もう、ほとんど病気ですね。友達のコピーライターが「可士和はたぶん、究極的にはただすっきりしたいだけだと思う」と言っていました。ユニクロやセブン-イレブンなどの仕事でもそうですが、世の中は基本的にカオスなので、そのある部分をクリアにした瞬間に、すっきりした気分になるのでしょう。(カオスだったものが)すっきりすると魅力的に見えるようになり、皆さんが商品を買ってくれるようになると思うのです。そもそも日常あるいは人間はすっきりしていないものなので、どこかですっきりした気分になれると気持ちがいいですよね。だから、僕も家や仕事などを、整理したいのだと思います。それと1番の対極にあるのが「計画性がないもの」。ただでさえ世の中は基本的にカオスなのに、計画性がないと余計にめちゃくちゃになってしまうので、むかつくのです(笑)。

財部:
もう、こんなお時間になってしまいまして。

佐藤:
楽しくお話させていただきました。今日は普段、話したことがないことや、話したかったことがだいぶ言えたので、とても気持ちよかったです。

財部:
僕も本当に楽しかったです。ありがとうございました。

(2012年8月27日 東京都渋谷区 株式会社サムライ オフィスにて/撮影 内田裕子)