入交グループ本社株式会社  代表取締役 入交 太郎 氏

入交:
確かに、大勢としては、そちらの市場を目指すのも良いと思います。でも地方都市とはいいながら、数十万人の人口を抱えていますから、必ずそこには需要があるのです。大手が高知あるいは四国に来て仕事を始めるかというと、そういうマーケットでもありません。同業でもやめていくところがありますが、きちんと地元でマネジメントをして仕事をしていけば、人がいる限りは当面、役割を果たしていけると思います。当面というのは、おそらく数十年の範囲ですね。

財部:
数十年というと、2、30年ぐらいですか。

入交:
そうです。2、30年後のその後は、日本がどういう形になってくるのかが見えてこない、という意味で。既存事業は対外的には動かせませんので、ベンチャー企業に出資をしたりしていますが、ベンチャーにはないものを私どもが持っている部分があると思います。たとえば人のつながりや取引先、あるいは信用部分をうまく活かしてコラボレーションを行い、さまざまな仕事にチャレンジしています。

財部:
どんな仕事にチャレンジしているのですか。

入交:
たとえばヘルスケアの仕事や、教育にも関係しているIT系の事業など、さまざまなものに取り組んでいますが、花開くにはまだ時間がかかります。一般的には、地方企業を遠くから見ると非常に閉塞感があるように映ると思いますが、地元には地元の仕事が必ずありますので、それほど悲観するべきものでもないですね。

財部:
はい。私も講演会や取材で結構地方を訪れていますが、そこで迎えて下さる方は、たとえば地域の経済団体の会長さんなどです。正直言って全国どこに行っても、そういう方で、本当に危機感一杯の経営をしていらっしゃる方はほとんどいません。

入交:
ええ。

財部:
じつは地元の有力企業は、大変とはいえ悠々たるものです。ある意味で「地方は皆駄目だ」というのは嘘ですね。確かに、成長しなければ雇用の維持・拡大ができないという点で、地方企業が全体的に大変であることは間違いなく、その中で淘汰される会社があるのも事実です。しかし長い歴史があり、それなりの規模と影響力を持っている地方企業が将来的な危機感を抱いているとしても、今の状況が危機的であるということではないですね。

入交:
われわれも常に危機感は持っているのです。私どもは経営者が交代できませんので、2、30年ではなく、もっと先を見ないといけません。地方完結ではなく、私が週の半分以上東京にいるのも、多くの方とお会いして地元と東京を繋ぐ必要があるからです。また(東京では)、いろいろな方が仕事の話や相談を持ちかけてくれますので、そこでマッチングのお手伝いもしています。すぐに利益にはなりませんが、やはり地方に持って行けるビジネスのネタも探しながら、ということなんですね。

財部:
本当に長い歴史を持つ地方の会社には、何か具体的な経営数値で表すことができない強みが、意外と数多くあるものです。なかなか表現が難しいのですが、たとえばわかりやすいのが電力会社です。地方の電力会社にはまだあまり切迫感がないですが、東京電力は非常に強い危機感を持っていて、同社は昨年9月に『2020ビジョン』という新しい中期経営方針を出しました。そこに、海外に出て行って収益性を高めるということが書いてあります。

入交:
そうなんですか。

財部:
その一番のメインは原子力発電所におけるオペレーションの提供です。東電さんが原発を造るわけではなく、建設を委託するわけですが、その際オペレーションの提供をパッケージにするのです。昔の日本のODAは、商社が物件を持ってきて、ひも付きで設備を造って終わりでしたが、これが日本の最大の失敗でした。そこで長期にわたるオペレーションまで取っていくようになったのですが、それが過去の動きとは大きく違っています。

入交:
なるほど。

財部:
そうすると、対象が原発である必要も全くありません。(途上国では)現在、熱効率が悪く大量のCO2を排出するレベルの低い火力発電を行っていますから、日本の火力発電所を現地に持って行くだけで環境問題に寄与することになります。でも、それを造るのは他の会社で、東電はオペレーションを取りに行くというわけです。オペレーションと言えば、私も一回取材に行ったことがありますが、送電網のオペレーションはやはり凄いですね。

入交:
なるべく送電ロスをなくして、ですよね。

財部:
そういうことを考えていくと、アジアは成長著しい一方、さまざまな面でレベルが低いままです。そこで私は、そういう企業グループのオペレーションの方法や、もう少し細かい個別事業のオペレーションなどの面で、日本企業が入り込む余地、あるいは協力できることが数多くあるのではないかと思っています。

入交:
東電さんは顕著な例でしょうが、各業界におっしゃるようなソフトを持っている会社が数多くあります。そこは本当にビジネスチャンスがある分野ではありますが、なかなかそれをビジネスにして、お金にするスキームを作ることが難しいですね。

財部:
でもこの間、富山県の三協立山アルミさんで、面白い話がありましてね。

入交:
はい、はい。私どものメインの取引先です。三協立山さんのサッシを売っていますので。川村(人志)会長とも仲良くさせていただいています。

財部:
私も、川村さんとは非常に仲良くお付き合いをさせてもらっています。川村さんは本当に人柄も独特ですが、なかなか先見性のある方で、「台湾の会社と組んで中国に出て行こう」という話になったことがあります。その時、私は「御社が組もうとしている台湾の会社をどう評価されているのですか」と聞いたのですが、川村さんは私に「別の台湾企業を紹介してほしい」と言いました。日本の銀行などではなく、台湾の別業種の会社から見て、連携の相手先企業がどういう評判を得ているのかを知りたい、とおっしゃるわけです。

入交:
なるほど。

財部:
それから今、イトーヨーカドーが四川省の成都で大成功していまして、おそらく最も中国で成功している日本の会社は、この四川のイトーヨーカドーだと思っているのですが。

入交:
そうなんですか。

財部:
完全に現地化して素晴らしい出来栄えです。そこで、三協立山さんが中国に出て行かれる時に、川村さんから「イトーヨーカドーさんの日本人の総経理を紹介してほしい」と依頼がありました。ここが、私が非常に川村さんを好きなところで、彼は、全く違う業種の人に話を聞きたいというわけです。建設でもサッシでもなく、そういうところからマーケットなり、進出先の情報や合弁相手の人となりについて情報を得ることが一番大切だと、私は常日頃から思っています。

入交:
はい。

財部:
とはいえ私は、それが本業ではありませんから、本当にご紹介するだけの関係です。しかし、今までの日本企業は中国で何かあると、コンサルタントに頼んでフィージビリティスタディ(実現可能性の検討)をやり、ほぼ全員が失敗していました。はっきり言って、皆同じ答えが出てくるからです。要はやり方を間違えていて、もっと普通に考えて「近所の人」に聞いてみれば、一番よくわかるのです。

入交:
昔の結婚調査のような話で、点数ではありませんよね。

財部:
本当にそうです。

入交:
それにしても川村さんは、あのお立場になられても、本当に考え方が柔らかいですし、変に格好をつけないところが素晴らしいと思いますね。

財部:
ええ。ところで入交さんは先ほど、週の半分は東京におられて、いろいろな方と情報交換をしているというお話をされていましたが、実際にはどのように行われているのですか。たとえば食事をするとか…。

入交:
そうですね。やはり食事はとても大事な時間で、いろいろな話ができます。応接でお茶を飲みながら1時間話をしても、深い話はできませんし、相手の人となりの裏側にあるところまではわかりません。でも一回食事をすれば、だいたい胸襟を開いて話し合い、理解し合うことができます。私どもは、どうしても長く経営に携わりますので、常にレベルを上げていかなければなりません。自分自身がボトルネックになるのは最悪です。いろいろな方とお会いすることが、自分のレベルを上げるための一番のポイントだと思いますね。

財部:
それは素晴らしい言葉ですね。「自分自身がボトルネックになってはいけない」という問題意識は凄いと思います。誰しも「自分が成長しなければ」と言いますが、ボトルネックという言葉を自分自身のポジションにあてて表現するのは、ほかに聞いたことがありません。