入交グループ本社株式会社  代表取締役 入交 太郎 氏
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経営者の素顔へ
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自分自身が経営のボトルネックにならないように、
常にレベルを上げていく

入交グループ本社株式会社
代表取締役 入交 太郎 氏

財部:
新潟総合学園の池田総長からご紹介いただいたのですが、お二人のご関係についてお聞かせ下さい。

入交:
池田さんとは、青年経営者の勉強会である日本YPO(Young Presidents' Organization)で面識を得てから15年以上のお付き合いになります。私は3年ほど前に同会の会長をしていましたが、池田さんは私の8代ぐらい前の会長で、その意味ではYPOつながりですね。

財部:
YPOといえば、ある種、非常にクローズドな会で、経営者の皆さんがお互いに心情を吐露しながら交流できるところですよね。

入交:
他の会では飽き足らないとか、肌が合わないという人たちもYPOに入ってきて、非常に喜んでいるケースが多いようです。悩みも完全に共有化できます。基本的には「雇われ社長」が少なく、同族系の企業同士で悩みが似ていますから。(経営者は)内心を吐露できる機会が非常に少ないので、入会したばかりの会員はわりと緊張して出てくるのですが、少し時間が経つと、一番心の休まる場になります。

財部:
そうですか。

入交:
逆に、会長や幹事は毎年変わっていくのですが、そこに一番気をつけて運営をしています。さまざまな講師を呼んでお話を伺う機会も多いですが、講師の方々から何かを得ようというよりは、皆が同じ話を聞いてディスカッションをするという、会員同士のコミュニケーションを大切にしています。その中で、より良い経営者や良い父親になっていけばいいというのがわれわれの考え方で、しかもクローズドを本当に守っています。

財部:
この「経営者の輪」のシリーズでも、YPOの会員の方に何人かご登場いただきましたが、彼らの悩みのようなものが、「なるほど、それはこのような構造を言うのか」と同族系企業の取材中に見えてきましたね。同族系のオーナー会社は皆息子に経営を繋いでいくという、一般論で言われているような単純な話には現れてこない、実際に事業を継承していく息子さんたちの苦労や思いが明確に理解できました。

入交:
そうですね。YPOの会員は中堅企業以上なのですが、これは日本独特の文化の一部とも言えます。YPOに限らず、同族会社は世代交代の時期を迎えています。今までは日本経済が拡大基調で来たのでよかったのですが、経営を譲られた息子からすると、「従来から(会社に)たまってきた垢がいろいろとある。それを整理して、自分が新しいことをやろう」という時にはもう年限がかなり経ってしまっている、というのが従来の構図なのです。

財部:
なるほど。

入交:
その意味で、これから日本経済が徐々に縮小していかざるを得ない中、本当に子供に会社を継がせるのは、良いことなのかどうか。あるいは子供以外の誰かに会社を継がせようという場合でも、上場してしまえば話は別ですが、非上場会社では、銀行からの融資を引き出す際には必ず個人保証の問題がつきまといます。そのため優秀な社員に後を継がせようと思っても、個人保証がある限りは、絶対に誰もリスクを取りません。これは非常に大きな問題になってくると思います。

財部:
そうですね。それとは少し違う文脈なのですが、御社は日本M&Aセンターさんともお付き合いがあるのですね。

入交:
地元に、不動産・砕石販売・建設等5社からなる某企業グループがありまして、お嬢様が2人で後継者がいなかったので、昨年、M&Aセンターさんと私どものメイン銀行である四国銀行に声がかかり、デュー・デリジェンス(適正評価)を行ったうえで、買収という形になりました。その時M&Aセンターさんに大変お世話になり、ディスカッションを重ねた経緯があります。

財部:
そうですか。私も、M&Aセンターさんが上場する少し前から興味を抱いて取材に行ったのですが、その時に、後継者問題や同族企業のオーナーが持つ資産と負債、それから個人保証の話になりました。やはり、どんなに優秀な社員がいても、いざ経営者が引退する時に、息子がいないとか息子が継がないという理由で、他人に自分の晩年を全部託して「後を継いでほしい」と言えないのが本音だと思います。簡単に潰されても困りますし。

入交:
はい。

財部:
確かに、そういうことを全部引き受けられなければ、重い責任を果たせないという事情もあるでしょう。ですが、この国の中堅中小企業は、どこかで全体として整理淘汰をしていかなければならない時代にあると思います。そういう中で今のお話を聞くと、入交さんが逆に買収する側におられるというのは、非常に良い状態ですね。

入交:
先の企業グループの件は、銀行からの案件という事情もさることながら、財務体質が非常に良かったのです。おそらく何年も前から準備をしてこられたからだと思いますが、まず、財務体質が良くなければ引き受け手はありませんし、私どもも似たような業種を抱えているので、内部もわりとわかっています。しかし何よりも、われわれがオーナーをたまたま存じ上げていて、彼が、信用も社員も大切にされる方だったという特殊な事情があるのです。

財部:
そうですか。

入交:
いずれにしても、これは今後日本中で起きてくる問題で、息子や娘、あるいは娘婿であってもリスクは取りたくないでしょう。逆に、リスクを取らせたくないのも親心。特に、この銀行保証の問題は、政治的なことも絡めて、どこかで解決していかなければなりません。

地方都市にも必ず需要がある

財部:
そうですね。私は入交グループさんの全体像を、ある意味では典型的な四国地方の名士であり、地域の多様な産業を束ねるグループだと認識しています。全国各地に、交通インフラを始め、数多くの産業を手がけるグループ企業がありますが、そういう会社が2000年代初頭のバブル経済の崩壊とともに、不良債権処理で取り潰しになりました。その結果、バスはなくなる、何がなくなるというように、地元の経済が非常に落ち込んでいるという話を、各地域で聞きました。一方で、そのように本当に地域に根ざした企業グループは、今後どうしていくべきなのか、という問題意識を抱いたのです。

入交:
そうですね。

財部:
正直な話、私はただ「日本が駄目だから」と言うのではなく、もっとポジティブな意味で、「アジアはこれだけ成長しているのだから、アジアにシフトするべきだ」と、製造業を中心に、中小企業にまで声をかけています。それとは逆に、地域に根差し、地域の多様な産業を束ねている入交さんのようなグループ会社は、これについてどういう認識を持っておられるのか、非常に興味がありますね。

入交:
私どものグループは、石灰製品の製造がルーツです。創業は1819(文政2)年で、昔は山から石灰石を採掘し、それを石炭で焼いて生石灰・消石灰を作っていました。それが漆喰壁の材料になったり、稲の病気である「いもち病」に用いられていた殺菌剤である水銀(かつて酢酸フェニル水銀が広く使われたが、現在わが国では使用が禁止されている)と混ぜて撒いていたような時代がスタートなのです。

財部:
そうなんですか。

入交:
石灰は漆喰やモルタルに使用されるので、建設関係の仕事があったり、農業関係では農薬肥料などの扱いもあり、いまだに石灰そのものの事業も続けています。地方におりますので、公共投資の関係で一番効率の良い仕事は建築土木でした。そういう会社も、もちろん抱えています。新潟総合学園の池田総長もそうだと思いますが、われわれは動くわけにいきません。社員の生活を守ってこその事業なので、どこかへ引っ越すわけにいかないのです。われわれが製造販売しているものもありますが、主に国内の鉄鋼会社や化学会社に向けたもので、国内売りの仕事がほとんどですので、簡単にアジアシフトと言って、そちらに出ていくわけにもいきません。

財部:
そうですか。