株式会社学究社 河端 真一 氏

財部:
僕の2人の子供も塾に通っていたので、塾をどう選ぶかという事に関しては、それなりに妻と話し合った経験があります。その中で、いろいろと塾を見てきましたが、河端さんは塾としてのあり方と、企業の成長について、どう折り合いをつけてこられたのでしょうか。

河端:
私には、あまり経営者という意識はありません。今に至っても、そういう意識は低いですし、副業的なこともほとんど行ってきませんでした。したがって今のご質問については、「私は経営者としては、その場その場において、行き当たりばったりでやっている」としか言いようがありません。私自身、会社に勤めたことがないですから。

財部:
そうすると、河端さんにとって「卒塾生が、どんな学校に何人入ったか」という結果が、塾の発展における1番大きな要素になるのでしょうか。

河端:
それよりも、当時で言えば「個人的な人気」ですね。現在、予備校でカリスマ先生たちが活躍しておられるのと同様です。子供たちは今、社会の中で腫れ物に触るような扱いを受けていて、たとえば「君たちはこう生きなければならない」と引っ張っていってくれる人が誰もいません。学校の先生は子供たちに「自由にしていい」と言うし、父も母も「君の好きなように生きなさい」と言う。でも子供たちは、やはり強いリーダーシップを求めていますから、われわれのやり方が、そこに上手く合致したのかもしれません。

財部:
じつは、僕の子供が小学校に入ってから6年間、地域のサッカー部のコーチを引き受けたことがあります。子供たちは小さいとはいえ、僕は「してはならないことを、やってはいけない。ルールはルールだ」と厳しく教えました。その時、僕は河端さんと同じような問題意識を抱いていて、ある意味で「子供たちは大人と変わらない」と感じていました。もちろん子供たちは幼いぶん、足りないところは数多くあります。でも、だからといって「コイツはなにも分かっていない」と、大人が見下したような態度を取るのは大間違い。子供は子供なりに、分かる部分はきちんと理解して話を聞いているんだなあと実感しました。

河端:
子供たちは、本当によく見ていますよね。小学3、4年生の子供でも、先生が本気なのか、それとも適当に話しているだけなのかを見抜く能力があります。

財部:
そうですよね。子供たちは、適当なことを言うコーチの話は誰も聞きません。ところが大人が子供たちにきちんと向き合い、本気で怒り、本気で言えば、彼らはそれに応えようとする。そういうことを、僕も経験的に感じています。

河端:
そうですね。

子供たちの感受性・克己心を育てる人間教育

財部:
ところで今回、河端さんに関する資料をいろいろと拝見して、1番目に留まったものが「地球温暖化の批判的検討」という記事でした。これは、どういう考え方なのでしょうか。

河端:
今、言われている地球温暖化の「CO2(二酸化炭素)犯人説」は非常に怪しいということです。地球の歴史を振り返ると、温暖化は過去にも起こっていました。また、地球はこれまで氷河期を何度も経験してきましたが、現在は次の氷河期へ向かう途中です。そもそも大気中にCO2は0.003%しかありません。

財部:
なるほど。

河端:
確かに今、地球は温暖化していますが、私たちが考えている温暖化の最大の原因は、太陽活動によるものです。地球が暖かいのは太陽のお陰であることは、誰もが理解していますが、地球温暖化は、11年周期で増減を繰り返す太陽の黒点活動に大きな影響を受けています。実際、ビールやコーラが温まると「気が抜ける」ように、気体の溶解度は温度が上がると減少します。したがって温度が低い時には、水の中に、地球全体の6、7割を占める量のCO2が溶けていますが、それが太陽によって暖められると、水中から大量のCO2が大気中に放出される。つまり、太陽活動の周期によって地球が暖かくなったから、水中に溶けていたCO2が大気中に出てきたわけで、人間の産業活動によってCO2が増えたから地球温暖化が進んだとは必ずしもいえない。逆なんです。

財部:
原因と結果を取り違えているわけですね。水中に溶けているCO2の量は、人間が作り出すCO2の量の比ではないということなのだと思います。

河端:
また、地球の長い歴史の中で、多くの人が、気候は太古から一定のものだと思っていますが、まったくそうではありません。むしろ温暖化よりも寒冷化の方が、食糧生産が減少するので、人類にとっては大問題なのです。4〜5世紀にかけてヨーロッパで起こった「ゲルマン民族の大移動」も食糧を求めてのことですし、「フランス革命」(1789年)でも、冷害による食糧不足で平民が暴動を起こしました。日本の江戸時代の「天明の大飢饉」(1782〜1787年)も寒冷化が原因です。温暖化よりも寒冷化の方が、人類にとって恐ろしいことが起きるのです。

財部:
食糧の生産ができませんからね。

河端:
そうですね。地球の平均気温は15℃ですが、ある程度の温暖化が進めば、広大なツンドラ地帯でも、もっと農作物を収穫できるようになる。その意味で温暖化は、世界的な食糧危機が叫ばれる中で、非常に喜ばしいことである、という一面もあるのです。そうした中で、日本はいったい何をやっているのだろう、と心配になります。

財部:
本当にそうですね。CO2の25%削減とは、世界中の笑いものです。

河端:
私は以前、大手新聞社の方や政治家にも、そういう話をよくしたものです。多くの人が「あなたの言う通りだと思う」と賛同してはくれますが、「でも、公には言えない」と彼らは言う。実際、私がこういう意見を公の場で話した時、さんざん叩かれました。

財部:
アラスカ大学の赤祖父俊一教授も、地球温暖化の「CO2犯人説」を否定していますが、学会では「悪魔」と呼ばれているそうです。アカデミックな議論には本来、論の主張があり、それに対して反論があることが通常のパターンだと思いますが、このCO2に関する議論には、反論がどこにもない。それ自体が怪しいわけです。

河端:
「地球温暖化」というだけで、多くの予算が付きますしね。

財部:
先の自民党政権では、09年4月に総額約14兆円の補正予算を閣議決定しました。ところが予算をなかなか使い切ることができないため、たとえば農林水産省までが「低炭素社会の実現」云々という事業を盛り込んでいます。「環境」という名前さえ付ければ予算が取れるという馬鹿げたことが、この国で本当に行われていますよね。

河端:
でも、こういう国だからこそ、少し考えれば仕事で成功できるとも思うのです。これは良いことなのか、悪いことなのかと、少し迷うところもありますが。

財部:
確かに国内だけを見ていれば、少し賢ければ成功できるかもしれません。それ自体は良い話かもしれませんが、海外に目を移せば、グローバル競争がもの凄い勢いで展開されています。河端さんは、早期から海外にも投資を行っていらっしゃるのでご存じだと思いますが、そのグローバル競争は、かつての欧州中心からアジア、中国へと劇的な変化を遂げています。そうした時に、日本の基準で世界を見ることは非常に危険です。「真実がどこにあるのか」をきちんと探求する習慣を身につけなければ、日本人はグローバルには活躍できないのではないか、という恐ろしさを感じますよね。

河端:
やはりアメリカや日本は「大衆社会」であり、皆が同じようなものを食べ、テレビを通じて同じものを観て、同じように考え、同じように間違うという国柄ですよね。

財部:
ええ。でも、そういう国柄の中で教育を行っていくにあたり、河端さんは、どういう問題意識を持って、子供たちに向き合っていらっしゃるのでしょうか。

河端:
もちろん「君たち、世の中は間違っているぞ」というような危険なことは言いません。ただし、子供の頃からきちんとした批判力は持ってほしいと思いますから、自分が教壇に上がる時も、他の先生からも、そういうことを子供たちに話してもらっています。

財部:
そうですか。

河端:
やはり、教育において1番大事な事柄は、感受性を育てることだと思います。たとえば道端に咲いている花を見て、「きれいだなあ」と思う気持ちがあるのとないのでは、大きな差があります。感受性があれば、さまざまな事柄に対する問題意識も生まれるし、瑞々しい人間性も育つわけで、私はその部分を大事にしたいと思います。そこで、われわれは「清里自然学校」(山梨県北杜市高根町)という、敷地面積1万4000坪にも及ぶ教育施設を造りました。自然学校では、勉強合宿だけでなく、牛の乳搾りやそば打ちなどのさまざまな活動も行い、子供たちの精神面の成長を促すことを目的にしています。

財部:
清里の施設では、合宿で詰め込み学習だけを行うのではなく、感受性を育てる教育も実施されているのですね。

河端:
はい。その一方で、子供たちには午前3時まで勉強させます。そういう体験を通じて、子供たちは「一皮むける」というか、「雲の上に広がる青空」を見ることができるようになる部分があるのです。勉強合宿のかたわら、牛の乳搾りや高原野菜の収穫を行うといったことも、ある意味で、われわれが本来学校がなすべきことを代行しているわけです。

財部:
清里では、どのぐらいの期間の合宿を行うのですか。

河端:
夏休みに行っている勉強合宿は5泊6日です。でも、われわれはアメリカ型のサマーキャンプの実現を目指しており、本当は6、7週間をかけて行いたいところです。というのも、子供たちの克己心や自立心を育てることを考えれば、やはり親離れや子離れが不可欠。だとすれば、アメリカと同じぐらいの期間を取って合宿を行うべきですし、そういう機会が子供の成長にとって必要であるということは、人類の経験法則だとも思うのです。

財部:
なるほど。今、日本で長期間のサマーキャンプができないのは、規制面などで何か問題があるからですか。

河端:
いいえ、やろうと思えばできます。しかし、子供自身が何かと忙しいこともありますが、何よりも大きいのは、親が子供をなかなか手放さない。そういう意味では、むしろ必要なのは、親の子離れのほうです。われわれは、合宿中に親から送られてきたメールをお預かりして、それを子供たちに渡していますが、1日目から「寂しい」と言い出すのは子供たちではなく、むしろ親の方なのです。

財部:
なるほど。塾を通じて、今の日本社会の姿がよく見えてくるようですね。

河端:
本当にそうでして、子供たちにとって1番危険なこと、あるいは今の日本が犯している最大の過ちは「金権社会」。それは、社会の実態を映し出す鏡として、子供たちの姿に色濃く反映されています。

財部:
もう少し詳しく説明していただくと、どういうことですか。子供たちの姿に社会の実態が反映されている、というのは――。

河端:
たとえば、医学部に進学したいという生徒が数多くいます。それぞれ志望理由を言うのですが、よく聞いてみると金銭動機であることが少なくない。自分の学力を早く金券に変えたい、という気持ちがどこかにあるのでしょう。

財部:
それは高校生ですか。

河端:
高校生もそうですが、中学生、小学生にも色濃く現れていると思います。