カルチュア・コンビニエンスクラブ株式会社 増田 宗昭 氏

増田:
もし浜野さんが言った通りになるとしたら、これから人はいったい何を軸にして、モノを買うようになるのかと、僕は考えたんです。

財部:
何で選ぶんですか?

増田:
僕は、それは好みやスタイルだと思いました。車、家、別荘、靴、時計、髪型も含めて、ありとあらゆるものにスタイルがあるじゃないですか。財部さんも僕も、おぼろげながら自分のイメージにあっている商品を選んでいるんだと思うんです。そうなると、自分のスタイルをどこかで選んでいるわけです、無意識に。その「スタイル」を選ぶ場が要るのではないかと思って始めたのが『TSUTAYA』なんです。

財部:
なるほど。

増田:
「豊かな社会」になればなるほど、競争が激しくなり、「どんなモノを作ったらいいのか」、「どのように売ったらいいのか」、「どんな販促をしたらいいのか」、「どのように値付けをしたらいいのか」というように、「どんな風に」という企画が非常に重要になってきます。でも、たいていその会社内では、そういうアイディアがなかなか出てこない。やはり閉ざされているからなんでしょう。

財部:
自分達の会社のことは、なかなか客観視できないものですよね。

増田:
はい。会社の外にいる人の方が良く分かるケースが多いんです。その意味で、アウトスタンディングな企画専門会社が「豊かな社会」に必要だと僕は感じたんです。「だったら、それをやろう」と決めたのが、僕が独立したきっかけです。で、その最初の作品が『TSUTAYA』ということなんですけどね。 僕は、組織的に再生産メカニズムを持って、企画提案ができる会社をつくりたいんです。

財部:
「企画の再生産」っていうものに加えて、「企画の企画化」ということもおっしゃられていますよね。そういうことは可能なんでしょうか?

増田:
うーん。僕は、発想の原点は「心」だと思っているんです。発想は「頭」でできるものではありません。頭は、どちらかというと個人のエゴのために使う。「こんなことしたら危ない」とか、「こうしたら儲かる」とかいうように。その一方で、「あの人はかわいそう」だとか「助けてあげよう」、「応援したい」というのは「心」でしょ。心って「利他」だと思うんですよ。

財部:
なるほど。

増田:
もともと企画って、「こんな風にしたらお客様が喜ぶよね」とか「楽しくなるよね」ということを考える作業だと僕は思っているので、そういう「心」のある人間の集団を作れば、「企画の再生産」ができる会社ができるのではないかと考えました。だから、人の採用はずっと、それを軸にしてやってきたんです。利他の心がある人を集める、みたいな感じで。

財部:
ほお。それは、CCCの草創期の時から?

増田:
もう最初からです。企画会社を作る、というのは、最初から決めていましたから。

財部:
まあ確かに、社名がそれを物語っていますよね。そこで、僕が伺いたいのはですね、増田さんのような天才的な経営者が、世の中にいらしてですね――。

増田:
僕は凡人の究極ですよ、サラリーマン時代から(笑)。

財部:
素晴らしい経営者がいて、素晴らしい発想があって、素晴らしい会社ができるわけです。でもそれは、実際にその経営者個人の能力や属性に負っている部分が非常に大きいわけです。そこに人が増えてくると、それだけバッファー(緩衝)も大きくなってしまう。そうなると必然的に、会社の規模が拡大するにつれて、経営者個人の圧倒的なパワーが、結果的に分散することになりますよね。

増田:
はい。そうですね。

財部:
そうなると、経営者自身が、いつの頃からかクリエイティブな話をしなくなってしまう、というケースが少なくないんです。でも、増田さんは今でも「企画の再生産」を諦めていない。これは、やはり違うなあ、と思ったんですよね(笑)。

企業の成長と衰退を左右する「1:3の法則」

増田:
僕の話は、大昔から変わっていません。僕はね、単純、しつこい、諦めない。この3点が僕の特質(笑)。で、今おっしゃったことは、組織が大きくなった時に、そういう「特質」が機能しなくなるじゃないか、ということだと思います。僕自身は、そういうことを「1:3の法則」と呼んでいます。

財部:
「いちさん」?

増田:
はい。これは何かと言えば、1や3という数字がつく時に、組織が変革しなければ駄目になるという経験則なんです。これが当社の成長曲線ですが(グラフを書きながら説明)、会社の業績が良くなったり悪くなったりする時って、だいたい1と3がつくんです。最初のポイントはたぶん300だと思うんです。店舗や会社を始めたあと、従業員数が10人、30人、100人、300人になっていくごとに問題が起こってきます。

財部:
えぇ。

増田:
でも、従業員30人の時のやり方のままで、なんとか100人まではいけてしまって、一時的に業績も伸びるんです。ところが、ベンチャー企業が一番成長に伸び悩むのが、じつは従業員100人から300人に増える時なんです。この時期にだいたい組織を立て直し、階層のようなものができるんですが、実際には、経営トップがその階層を飛ばしちゃうんです。つまり担当部長がいるのに、トップが現場に直接に行ったりしちゃって、問題があったら全部ケアしてしまう。これまでやっていたのと同じようにね。

財部:
つまり、部下に任せられない。

増田:
そう。どんな人の意見を聞くよりも、自分がやったほうが早いですから。ところが300人規模になったら、そこから先は、本当に部下に任せないと無理ですね。でも、経営者はそこが分からない。だから僕は「従業員が300人を超えたら権限委譲することを覚えなさい、そうしないと絶対におかしくなるよ」と、あらゆるベンチャー企業の経営者に話しています。実際、自発的に動く中間管理職を育成できなければ、いくら規模を広げていっても人が辞めたり、うまくオペレーションできなかったりしますからね。

「原理原則」から考え、全社を挙げてリスクを取る

財部:
うーん、そうですよね。

増田:
これがありとあらゆるところで起こります。僕が『ディレクTV』を退任したのも、『TSUTAYA』が300店から1000店に移る頃でした。僕自身、300店のマネジメントをやっていた時に、何かおかしいと感じていたんです。その時に銀行の人から、「増田さんのところはいい会社だし、借金も少ない。儲かっているけど、将来を考えたら、もっと大企業の人と仕事をしなさい」と言われました。最初は何を言われているのかわかりませんでした。でも、今振り返ってみると、権限委譲や報酬のやり方、組織の作り方、リスクマネジメントの方法は大企業と300店規模の会社では違う。それを学べということだったんですね。それがわかったので、「よし、権限委譲だ」となりました。その結果、TSUTAYA1000店舗、売上高1000億円、従業員数1000人の壁を超えることができた。僕はそう思っています。

財部:
ほお。それはやはり体験の中でしか、学べないものですかね?

増田:
ええ。こんなことは、その渦中に考えてもわかりません。あとで振り返ってみると「なるほど」と思うことばかりです。実際、従業員300人の壁、1000人の壁を超える度に苦難があって、3000人の壁でもさらに予想もしなかった出来事が起こるという、その繰り返しでした。ウチは最近3000人の壁を超えたんですが、まだ「報告なしで行こうぜ」というのにこだわっています。だから、定例の報告は僕には上がってこないし、社長室もない。僕は誰に会うにも、これ(ノートパソコン)を1つ持っているだけですから(笑)。

財部:
社長室なし、報告なし、というのは凄いですね(笑)。私も、これまでいろいろな経営者の方とお会いしましたが、初めてです、これは。

増田:
何も要らない。知りたいことは自分から聞きに行けば良いし、逆に、「なぜ社長室が要るのか」と僕は思います。極論すれば、僕は会社もいらないと思ってるんですよ。

財部:
会社もいらない?(笑)

増田:
はい、いらない。(笑)

財部:
会社がある程度順調に行っているから、そう思えるということでしょうか?

増田:
会社を順調に行かそうとするからこそ、そう思うんですよ。

財部:
うーん、なるほど。それは、究極の権限委譲ということになりますか?

増田:
そういうことじゃないですかね。

財部:
それは、増田さんの価値観が、社内に本当に根付いたということと理解していいのでしょうか?

増田:
いいえ。全然。 僕はお客様のために企画を作ってね、お客様にハッピーだと思ってほしい。それこそCCCがやるべきことだと思っています。借金もない。今月の決算も、来月の決算ももう読めている。だけどね、3000人でこんなことをしていていいのか、って思うんです。

財部:
うーん。確かに、新しいビジネスを無理やり生み出す必要がないわけですね。

増田:
このままでは、いざやらなきゃいけない、という時に筋力も知力も衰えていて、何も生み出せなくなってしまうな、って僕思っているんですよ。